第42話 『夢の二丁拳銃』


 サイタニ屋は商業地区の一等地にある大きな建物です。一階から四階まで、武器や防具、各種アイテム、簡単な魔道具など、ずらりとありとあらゆる商品が陳列されています。

 

 さっそくリョウマとゼントは店に着くと、入り口を通り抜け、店内の掃除をしている、若い、やや胸の大きな可愛らしい女性に声をかけました。


「ムツ!」


 ムツと呼ばれた女性は、リョウマの方へ顔を向けました。


「おおリョウマ!! お帰り。今回は帰りがやけに遅かったね。1年ぶりぐらいかい。ゼントさんがいるから死ぬ事はないとは思ってたけど、流石にちょっと心配してたよ~」


「すまんな、ムツ。長期間留守にしてしまって」


「いいよ。まああんたは手紙魔だから至高の便箋で頻繁に連絡を取りあえたし、店の在庫の納品も奇跡の箱で送ってもらってたから、店の経営は今のところ全部大黒字だよ」


「そか。よかった」


「それと、クシナダ姫からあたし宛に手紙が大量に届いてるぜ。あの人この手紙の使い方いまだによくわかってないみたいだぞ? 死ぬほど強いみたいだけど、ちょっと人としてどこか抜けてると思うぜ。お前ちゃんと手紙に使い方書いて送ってやれよ」


「ああ、わかった。早速暇を見つけて手紙仰山書く。書きたい事なら沢山あるしな」


 至高の便箋とは、魔力の込められたアイテムで、便箋に書いた文章などに魔力を微量に放出すると、頭の中にイメージした相手にその文章の書かれた紙を瞬時に送れるというという不思議なアイテムです。


 ムツも持っているので二人は頻繁に手紙でやりとりをしていました。


  また、奇跡の箱は、最大100個まで、ダンジョンで手に入れた武器や防具、アイテム、魔道具などを詰め込んで、魔力を込めて空に浮かべることで、任意の場所や頭に思い浮かべた人に瞬時に送ることができ、魔力を使うことでサイズも自由自在に調整できる不思議なアイテムです。


 至高の手紙は1万ジェル。奇跡の箱は3万ジェルと破格でリョウマの万屋で売られています。どちらも大人気商品なので、リョウマは旅の道中もムツから手紙を受け取り、在庫が切れないように気を使っていました。


 ちなみにこのアイテムは賢者の国ジャスタール産で、リョウマと最近仲間になった、コアラに変身できるとある人物が、まだジャスタールにいた数百年前頃に作ったものです。

 二つとも、賢者の国ジャスタールと貿易しているガレリア王国では、5万ジェルで売っています。


 このムツという女性はリョウマと同じサラバナ王国の出身で、彼女の右腕でもあり、留守がちの為、会合衆で滅多に政に参加しないリョウマの代理で都市の最高責任者、パパイヤン副市長として、他国や他の都市、街との外交や貿易交渉、内政、都市開発計画他雑務、その他多数所有している店の管理などをリョウマから任されています。


 16歳の若さで、その辣腕ぶりからカミソリ女と呼ばれています。サラバナの大臣の娘で王族という事もあり、リョウマと同じく世界中の国から一目置かれている人物です。ちなみに彼女のレベルは46。そこそこ優秀な回復術士で、幾つかの高度な回復魔法と、神魔法の初歩、フーを使用することが出来ます。


 幼い頃は王家を飛び出して武の国ラズルシャーチに行き、厳しい訓練を受けて一流の回復専門術士になりたいと考えていたこともあるようです。


 特殊能力はカミソリ、超愚痴、文字改竄等と特に戦闘に向いた能力は一切持っていませんが、サラバナの優秀な大臣を排出し続けている政治家の家の子ということもあり、外交と貿易交渉を専門分野として政を積極的に行い、パパイヤンの発展に寄与しています。


 ちなみに彼女の特殊能力、文字改竄とは、本や書類に書いてある内容を偽りに書き換える、という魔力を使用した特殊能力です。ちょっとした騙し技にしか使えませんが、いざというときに、パパイヤンの重要機密が他国に盗まれないよう、カミソリという相手の精神状態を正確に把握する能力で、怪しいと感じた他国の要人に渡す資料や書面などには文字改竄を使用し、適当に誤魔化して切り抜けたりもしていました。


 容姿は幼いリョウマとは違い、いかにも女性らしく美しい容姿で、長い髪と綺麗な青い瞳をしており、体の発育もよいためか、常日頃愚痴っぽい性格ではありますが、会合衆の面々に大層愛され、不在がちのリョウマの代理としてその手腕振りを信頼されています。

 

 一部の住民達は、ムツあってこそのパパイヤンと、彼女の市政ぶりを高評価していました。そんな彼女がいるためか、リョウマも安心して用心棒のゼントと2人で主にガレリア王国領近辺に存在するお宝の眠っていそうなダンジョンを、道中で会った旅人や富豪達相手に商いしつつ、探索する旅に出ていたのでした。


「そうか、すまんのう。今回はちと冒険しすぎた。でも仰山稼いだぞ。ざっと500億ジェルだ。途中でガレリアの富裕層達に仰山会ってな。世界中のエキスを死ぬほど高値で買ってくれたんだ。ゼントが倒してくれた大きめのべヒーモスの肝も富豪達に直売できてな。しこたま金になったぜよ」

「ほう、やるじゃん」

「へへ。それで、ウチの留守中に何か変わった事はあったか?」


「特に何もないけど、一つだけ。」

「なんだ?」

「住宅地区に、戦士ギルドなる物が立ち上がった。」

「戦士ギルド? なんじゃそりゃ」


「ほら、この地域は比較的強い怪物が多いだろ? ミネルバ州はおっそろしく強いべヒーモス共の生息地だし。商人兵団達は外の弱い魔物討伐に忙しいし、リョウマの言ったとおり、カジノのせいで街には妙なゴロツキが住み着いて富裕層を襲うようになってしまって。だからパパイヤン内部の治安維持を、とあるすげえべっぴんさんの若い女性が議事堂に来て、引き受けてくれるって申し出てくれたんだよ。その女の人、レベルが見えなかったけど、滅茶苦茶強いんだよ。あの美しさからして、ひょっとしたらエルフ族かもしれないな。でも耳は尖ってなかったし、詳しい素性はわからないな・・・」


「エルフか・・・そいつは会った事ないな。エルフの国なんて、見たこともない」


「まあそれはともかく、その彼女が興したのが戦士ギルドっていうよくわからない組織さ。悪人には見えなかったし、私の能力を使っても嘘は全くついてなかったし、商兵団も弱い奴ばかりで人材不足だったし、一応任せてみる事にしたんだけど、よかったかな? お前が辞めろと言うなら辞めさせるけど?」


「いや、いい。そのべっぴんさんというエルフかもしれない女の人、ぜひ一度お目通り願いたいもんだしな」


「じゃあぜひお願いするよ。正直何してるのかよくわからない組織なんだけどね。ギルドってのもあたしにはよくわからないしさ」


 この中央世界には冒険者ギルドなど、冒険者を支援したり仕事を斡旋するような設備は一切ありません。他の異世界ならともかく、中央世界にはそのような文化が一切ないのです。


「ところでオフェイシス大陸の詳細な地図はあるか? 2枚くれ」

「ああ、あるよ。今持ってくる」


 ムツは一旦二階へ上がると、地図を持って降りてきました。


「ほら、持っていきな」

「ありがとな。ちょっと道中の旅人に売れすぎてしまって、ウチとしたことが在庫を切らしてしもうた。どうしてもこれが欲しかったんだ」

「そうかい。ところでまたすぐ旅に出るつもりかい?」


「いや、一週間ほどはここに滞在する予定ぜよ。できればちょっとゆっくりもしたいしな」


「よかった。今後の都市開発計画の事等でさ、ミヨシ君と共に相談したい事があるんだよ。特に治安維持の事とか。後日、1、2時間でいいから顔貸してくれないか? お前の意見を聞きたいんだ」


「わかった。じゃ、ウチは最近新しく出会った仲間達のところに行ってくるきに。またの」


「お前、また新しい仲間作ったのか? ホント人脈だけはボンボン広がっていくよな・・・呆れちまうぐらいだぜ」


 こうして店を出て行こうとしたリョウマとゼントでしたが、リョウマが再びムツのところにやってきました。


「あっそうだ。例の品物は鍛冶屋さんに作ってもらえたか?」

「ああ、こっちにあるよ。ちょっと待っててくれ」


 ムツは一旦室内の倉庫に行き、銃をしまうダブルホルダーを持ってきました。


「ほれ、出来てるよ。持っていけ」

「おおっこれは、たまるかーっ。これで銃をもう一丁、ウチのと同じ物を鍛冶特区の人が作ってくれれば、戦いやすくなるぜよ。あと数年後かもしれんけど・・・・」


 ホルダーを身につけたリョウマは心を弾ませていましたが、中々重火器開発が発展しない鍛冶特区には多少頭を悩ませていました。


 特に独自の魔道具を鍛冶特区で全く作れないことが、今後のパパイヤンの経済と発展に関わる重要な問題になりつつありました。


「お前の火力などいらんだろ。所詮アイテム使いなんだし、大人しくカバンで増やした回復道具だけ使っておけばいいのさ。お前はカバンだけの女なんだから、ふふふっ」


 喜ぶリョウマを尻目に、ゼントは軽く笑いつつ、痛烈な一言を放ちました。


「何を言うかっこのベコノカワッウチはカバンだけの女じゃないぜよっ」


 リョウマは杓子でゼントの頭を殴りつけます。


「ぐっ」


「ほな、ムツ。また後でな~」


 リョウマは笑顔でムツに手を振りました。


「世話になったな、ムツ」


 ゼントもムツに軽く謝辞を述べます。


「ああ。2人とも、またな。ゼントさん、リョウマの護衛、頼んだぜ」

「ああ、任せておけ」


 こうして、リョウマとゼントはムツと別れサイタニ屋を後にし、一通りの用件もこなした為、目的地である軍鶏鍋屋本店に向かうことにしました。

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