第39話『陽気な盗賊団?♪ 危機一髪ッ』

 一方、時を前後して、既にミネルバ州に到着していたペミスエは、かすかにただよう血の匂いを嗅ぎつけ、採石場に足を運んでいました。

 そこには盛り土に十字架がかけられた多数の墓がありました。


「何かしら・・・これ。人間達が争ったの?」


 その墓の中に、一つだけ、一際豪華な飾りが掛けられていました。


 そして、そこには名前も掘り込まれていました。


 ペミスエは、興味深げにその墓の名前を覗き込みます。なんと、そこには・・・・。


「・・・・スクナ・コネホ・・・・嘘、嘘でしょ」


 ペミスエは、大慌てで、素手で墓を勢いよく掘り返し始めました。


 そこには紛れも無く、スクナ・コネホの亡骸が埋まっていたのでした。


「嘘・・・嘘よ・・・・まさか、あなたが殺されるなんて・・・・一体誰に殺られたの? ライカールト? ファルガー? それともあのにっくきマテウス?? それともまさか、あのクシナダがここまで来たの? 嘘でしょ? あなたほどの魔族1の魔法の達人が、こんな無残に殺されるなんて・・・・」


 ペミスエはスクナの死体を見て、一人、大粒の涙を流し続けました。 


 そして・・・涙を流しつつ体の傷を確認していきました。。


「いや・・・この体の傷は・・・・刀傷? 神魔法の火傷の痕跡も頭部にあるけど、体の大部分が剣で深く切られてる・・・酷い・・・なんて残酷な・・・・」


 ペミスエは再び慟哭し始めました。


 涙が止まらないといった様子でした。


 彼女とスクナは恋人同士ではありませんでしたが、同郷で、同じ魔人衆の同士として、とても親交があったのです。スクナはまだ赤子だったスナイデルの面倒もよくみてくれていたのでした。


「絶対に許さない・・人間め。・・剣士・・・・神魔法が使える剣士の仕業ね。スクナを殺せるほどの奴・・・きっとラズルシャーチの剣士ね。スクナ・・・あなたの仇は、このペミスエ・バインが必ず取ってあげるからねっ」


 そう言い終わると、ペミスエは死者となったスクナの頬に口付けをした後、丁重な所作で再び死体を元の墓に埋めました。


「ルクレティオ、漣、首を洗って待っていなさい。あなた達を捕らえる為なら、この私、なんだってしてやりたい気分。この激情を、全てぶつけてやるわ」


 ペミスエの心に、魔族の本質、狂気が芽生え始めていました。


 そして気持ちを落ち着けた後、立ち上がり、更なる憤怒に身を任せ、パパイヤンに向かって早足で歩き始めたのでした。

 

 しかし、すでに身ごもっていたペミスエは、歩行中、強い吐き気をもよおし、道端で嘔吐してしまいました。


「こっこれは・・・まさか・・・」


 ペミスエが倒れがかったところに、突如大声で陽気な歌を口ずさむ、悪人面のオッサン集団で、元盗賊の5人組がやってきました。


 皆さんは彼らのことを覚えていますか? 以前アグニ達が手に入れた巨大なべヒーモスの肝を奪取しようと画策したとてともなく弱い5人組です。


 しかしリョウマに説得され、改心した彼らは、この不毛の土地、ミネルバ州で陽気に唄を歌いながら仕事を探していたのです。


「俺たちゃ陽気なポンカツ旅団♪ 定職 求人 何もなし~♪」

「俺たちゃ陽気なポンカツ旅団♪ お仕事探して生きている~♪」


 ポンカツを団長とする旅団員の一人、シュウカツが、倒れこんでいるペミスエに気がつきました。


「これはお嬢さん、大丈夫ですかい??」

「ええ、私は、平気よ・・・ありがとう」


 シュウカツはペミスエの無事を知り、安堵した様子でした。

 一方、警戒心の強いペミスエは、ポンカツ旅団達のレベルをすぐに凝視し、驚愕しました。


「(なっなんなの、こいつら。普通の人間の平均よりちょい高いぐらいで、とてつもなく、弱すぎる、雑魚臭満々の雰囲気・・・この地域のレベルの高い怪物達を、一体どうやって切り抜けてきたっていうの?? この辺りには相当てこずるべヒーモスだってゴロゴロいるのに・・・それにこいつら、ちょっと臭いわっ)」


 ペミスエの中の怒気は、ポンカツ旅団達が放つ異臭により、少しだけ和らいでしまいました。

 

 ポンカツ達は、全員が持つ特殊能力、気配消しを利用して、道中の怪物達を難なくやりすごしていたのです。当然のことながら、殺生等は一切しておりません。


「(どうしよう、この雑魚共、今すぐここで殺しておく? でも、無益な殺生はやめろってザルエラに言われてるし・・・それにしても、酷く臭いわ・・・・あたしのレベル、まだ確認してないみたいだし・・・間抜けね。でも不味いわ。弱そうとはいえ、相手は5人。剣も持ってる。レベルは低くても、油断は禁物。何か強い特殊能力か、強力な魔法を使えるのかもしれない・・・・もしかしたら魔法使いとかの類かも・・・。魔法使いって、レベルが低いほど強い特殊能力とか持っている奴いるし。そうじゃないと、この地域をまともに歩くなんて、出来ない・・・それにしても、この連中、酷く臭いわ・・・もう嫌、ここは早く退散しましょう)」


 ペミスエはポンカツ旅団の未知の可能性を警戒し、彼らから、早めに離れる事を決めました。


 ポンカツ達は多少のレベルの高さと、剣を持っていることと、気配消しという盗賊家業に便利な能力、あとは団員達が超建築術、ポンカツが超神速建築術、鉱脈探し、という能力を持っていること以外、アグニ達が呆れるほど、全くもって弱い、雑魚の極みのような連中です。しかもポンカツは、自分が鉱脈探しという金稼ぎに便利な特殊能力を持っている事を知りません・・・。


「助けて頂いて、ご親切にどうもありがとうございました。」


 丁重に頭を下げ、礼を述べるペミスエに、団長のポンカツも語りかけます。


「いいんですよ、お嬢さん。困ったときはお互い様ですからねぇ、うぇっへっへっへっ」

「(お嬢さんですって? 何このレベル38のゴミ。あたしが何年生きてるか判ってるの? どうやら魔族だとは思われてないみたいだけど・・・それにしても、この男、凄く臭いわっ多分この中で、一番臭いっ嫌っもう耐えられない・・)」

 

 ペミスエは苦笑いしつつ、鼻をつまみながらポンカツに背を向け、去って行こうとしました。


「あっお嬢さん、どちらへ??」


「ちょっと、パパイヤンまで・・・」


 そう言って、ペミスエは走り出して、全力でその場を後にしてしまいました。


「団長、あのどえらい綺麗なお嬢さん、すっごい足速いですねぇ~」


 部下のハロカツが言います。


「パパイヤン?? そうか、お前らパパイヤンだ!! パパイヤンっていう都市に行くぜい?!」

「ええっ」

 

 ポンカツの言葉に、他の団員達は驚きの表情を見せます。


「そうは言っても団長。あっしらみたいな元盗賊が、パパイヤンに入れてもらえるんですかねぇ」

「んなこと言っても始まらねぇだろ!!! 何とかあの都市に入れれば、仕事の口が見つかるかもしれねぇぜ? このミネルバ州を徘徊してるよりはマシだろうよっ行ってみる価値はあるぜいっ?」



「そうですね。団長、よっしゃ! 俺達も! パパイヤンへ、レッツゴーだぁ!!」


 ハロカツは威勢よく叫びます。

 

「おー!!」


 ポンカツの説得に応じ、一同は掛け声を合わせると、かなり先を行ったペミスエに続いて、再び陽気に歌を歌いながらパパイヤンを目指す事に決めたのでした。


「俺たちゃ陽気なポンカツ旅団♪ 定職 求人 何もなし~♪」

「俺たちゃ陽気なポンカツ旅団♪ お仕事探して生きている~♪」


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