第33話『石座りの少年1:非力な兎と天才剣士(因幡の白兎をモチーフに)』
ミネルバ州は岩石地帯が多く、出てくる怪物たちのレベルも平均70~80と高く、レベルアップまでに要する経験値が極端に低いアグニのレベルは面白いほどにグングン上昇していきました。
ほぼ全ての怪物はゼントとグラウスが致命傷を与え、アグニが広範囲魔法で止めを刺しました。
その結果、アグニはパパイヤン到着前にレベル101となったのです。
「もうこの私を超えてしまったのか・・・」
モンスターとの戦闘後、グラウスは少し悔しそうな顔をしました。
「ここはレベルアップには最適な場所ですわ! さあ、もっともっと狩って狩って狩りまくりましょう!!」
アグニは意気軒昂に叫びます。そしてレベルが100を超えたことで、
本人も仲間も知らない、神の力に起因した、ある特殊体質が覚醒したのですが、それが発現するのは少し先のお話です。
「落ち着かんか、今日の戦いはもう終わりじゃ。明日もある。今日はここら辺で休むとするぞ」
岩石地帯にぽっかりと空いた小さな空間に、ペロッティは野営地を設営しました。
そしてアグニ、リョウマ、ペロッティが眠りにつく中、ピエタはグラウスに人格変性呪文の修行を行っていました。
ゼントはモンスターの襲撃に備え、野営地近くの岩石に腰掛け、小難しい本を読みつつ、周囲を警戒しています。
すると、そこに少年と思しきか弱い叫び声がグラウス達の耳に入ってきました。
「なんじゃ、子供の声がしたぞ」
「私にも聞こえました」
「ここからあまり遠くない、何者だ?」
ゼントが本を閉じ、岩場から立ち上がって呟きます。
「何やら不穏な気配がするのう。どれ、ちょいとワシが様子を見に行くとするかの」
「ピエタ様、私も同行します」
「いや、おぬしは一人で人格変性呪文の修行を続けておれ。お主なら直に習得できるじゃろう」
「かしこまりました」
「おい、護衛人。一緒に行くぞっついて参れ」
「ついて行ってやるが、自分から仕掛ける戦いは」
「わかっておる。ワシを襲う魔物を仕留めてくれればそれでよい。行くぞい」
こうして、ピエタとゼントは密集した岩山の隙間道を通って少年らしき声のする方角へ走って向かっていきました。
ピエタ達が岩石地帯を抜けると、開けた平地がありました。
「なんと、こんなところに平地があったのか。しかし巨大な岩が沢山ある。野営地の設営は難しそうじゃのう」
ピエタが喋っていると、ゼントがとある大き目の岩石の上に膝を曲げて座っている少年を発見しました。
「おい、ピエタ。あの子供じゃないのか?」
「む・・・どうやら声の主はあの者のようじゃの。何故こんな場所に一人で? ちょっと行ってみるとするか」
ピエタとゼントは岩石の上に座っている齢10歳ほどの少年の所にやってきました。
二人の顔を見た少年の不安げな顔が一変、安堵の表情に包まれました。
「お主、名前は何と申す? 何故この巨石に座っておる?」
「僕はコネホ、ビコナ・コネホ。お父さんにここで待ってろって言われてるんだ」
「待ってろ? どういうことじゃ? 説明せい」
「実は、僕のお父さんを村人達がこの先にある炭鉱に連れて行れていったんだ。きっとお父さんを殺す気だよっ」
「なんじゃと? どういうことじゃ、事情を話すがよい」
「僕と魔法使いのお父さんは、この先にある小さな集落で静かに暮らしていたんだ。お父さんは魔法が使えるのに、理由は解らないけど、僕にしか見せてくれなくて、村人には魔法を使えることをずっと隠していたんだ。でもある日、ふとしたきっかけで魔法使いだってことがバレて、村人の皆はレベルの高い魔法使いのお父さんに冷たくなって、顔を見るたびに棒で叩いたり、鞭で打ったり、石を投げつけてきたりするようになったんだよ。お父さんは必死に耐えてたけど、でもある日、我慢できなくなったみたいで、簡単な破裂魔法を使って、村人達を驚かせちゃったんだ。そしたら村人達が本格的に怯え始めて、このままだと殺されるかもしれないから、住人達総がかりでお父さんをやられる前に殺してしまおうって相談をしてるのを、僕、夜に偶然聞いちゃって・・・きっと集団でお父さんを撲殺するつもりなんだよっ腕の立つ戦士も雇うみたいな話もしてたし・・・」
一般的な人間の世界では、雇われている兵士や、グラウスなど肩書きと名の通った高レベルの者は歓迎されますが、ただの住人でレベルだけが異常に高い者達は、魔族等と疑われ、人間達から迫害を受けてしまう傾向があるのです。
「なんということじゃ・・・」
「・・・」
「して、何故助けを呼びに行かぬ?」
「連れて行かれる直前に、お父さんが僕をここに連れてきて、魔法をかけられて、この岩から動けなくなっちゃったんだ。だから助けを呼びにもいけなくて・・・」
「それでおぬしは座っておったのか・・・」
「うん。お願い少女さん、僕と同じぐらいの年でしょ? 誰でもいいから助けてくれる人を呼んでっ僕はお父さんを失いたくないんだよっ」
コネホは必死な表情を見せ、ピエタに懇願してきました。それを瞳を閉じて聞いていたゼントは驚きの発言をしたのです。
「俺が助けてやろう」
「え? ほんと?」
「ゼント・・・。なら、ワシも行くぞい」
「ほんと? お兄さん、ゼントって言うんだ。強そうだもんね。キミは子供だけど」
「余計なお世話じゃ」
しかしお金に汚いゼントはコネホにこう言いました。
「ただし、条件がある」
「何?」
「金だ。金を払えっ」
「え」
「おい、ゼントっ相手はまだ年端もいかぬ子供じゃぞっ」
ピエタはゼントを叱りつけますが、彼は言う事を聞きません。
「関係ない。払うのか、払わないのか、どっちなんだ?」
「わかった。お金、お父さんから少しだけもらったのがポケットにある。全部あげるよ。大好きなお父さんの為だもん」
少年は小額のジェルが入った子袋をゼントに渡しました。ゼントは中身を改め、ぼやきます。
「ふん・・・はした金だな。まあいい」
「お主は悪魔かっこの卑劣漢めいっ」
ゼントの悪辣な振る舞いに怒ったピエタは、彼を咎めました。
「うるさい行くぞ、ピエタっ付いて来い」
「勿論じゃ。待ってろよ、少年。お父さんは必ずワシらが助けてやるからのう」
「ありがとう、良い人たちに出会えてよかった。待ってるから。お願いだよ~!」
こうして、ゼントとピエタは目的地である採石場へと急ぎました。
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