第30話『カバンの錬金術師』
元の野営地に戻る途中、アグニ達は強めの怪物達に取り囲まれました。
モンスターの平均レベルは60前後。強敵です。
「ふふん、この辺りでは強い奴らじゃのう」
「腕がなるわね」
「やりましょう」
「ウチはアイテムで支援してやるきに、頑張れよ」
そう言って、リョウマはパーティーから少し離れた安全な位置に移動しました。
「来るぞっアグニ!」
怪物たちが一斉に飛び掛ってきました。
「ここはワシに任せんかいっ!! イグナ・エル・バハムース」
ピエタは無詠唱で魔法を使える特殊能力を持っています。
その広範囲に爆発する魔法で、怪物たちの体は大きく欠損しました。
しかし生命力はしぶとく、怪物たちはまだ息があります。
「いまじゃ、アグニよ! 広範囲魔法で止めを刺せ!」
「了解っ」
アグニは空中を高く舞い上がり、空から広範囲に散る魔法を放ちました。
「新しく覚えた魔法よ! 消えうせなさいっイグナ・エル・グレーテル!!」
アグニが魔法を唱えると、針金のように鋭い魔力が激しい雨のように魔物達に降り注ぎ、そして絶命させました。
「見事じゃっ」
「やったな、アグニ」
「まあこんなもんですわっオーホッホッ」
しかし戦闘で高い威力の魔法を使ったアグニは、少しふらついてしまいました。
「おっとっと」
そんなアグニを遠くから見ていたリョウマが駆け寄って、抱きとめます。
「大丈夫か、アグニ。ほれ、これを飲むぜよ」
そう言って、リョウマはカバンから小瓶に入った薬を取り出し、アグニに差し出しました。
「ありがとう、頂くわ」
すると、アグニの体調は嘘みたいに良くなったのでした。
「あら? 信じられない! 全身から力が漲ってくるわ」
アグニの体力と魔法力は全回復したのです。
「お主、それはひょっとして世界樹のエキスじゃないのか?!」
その様子を見ていたピエタはリョウマに尋ねました。
「そうぜよ。ウチのとっておきのアイテムだっ」
「そんな貴重な物をこんなところで使いおって、お主は気前がいいのか悪いのか判らんわいっ」
「それは問題ない」
「問題ないじゃと? どういうことじゃ」
「ウチのカバンに入れたアイテムはレア度によって時間に差はあるが、無限に増えていくぜよ。元の一本を使い切らない限り、自動的に増やす事が出来るがじゃ」
リョウマの発言に、ピエタは瑠璃色の瞳を丸くして驚きの表情を浮かべました。
「なんと、では世界樹のエキスも使い放題なのか」
「使い放題というわけにはいかないが、今では相当増えて、商いが出来るぐらいの在庫は出来たぜよ」
「お主、そのカバン、ワシらに」
「売らん! これはウチのとっておきの秘密道具じゃき。それにウチにしか開けられんし、使いこなせんぜよ」
「むむう・・・・無念じゃ・・・」
「それにウチはアイテムだけなら誰よりも速く使える自信があるきに。
危なくなったら、戦闘中の緊急回復はウチに任せるぜよ!」
悔しがるピエタを横目に、リョウマは得意気に鼻の下を指で掻きました。
リョウマには先制アイテム使用という特殊能力が生まれつき備わっています。
この能力は戦闘中、誰よりも先にあらゆるアイテムを使用できるという物で、
彼女の使い方によっては、戦闘を大幅に有利に進めることが出来るようになります。
「なんだか知らないが、リョウマは戦闘でも回復役として役に立ちそうですね。」
グラウスはピエタを慰めつつ、言いました。
「そうじゃの、リョウマの能力は貴重じゃな」
ピエタは納得したように頷きました。
それから暫く歩いて野営地に到着すると、中央付近にあらゆるモンスターの素材が山のように積まれていました。
「なっなんだこれはっ」
「触るな。全て俺のものだ」
素材の山付近にいたゼントがグラウスを呼び止めました。
「ゼント殿は凄い力持ちなんですよ。一人でこれを運んできたんです」
馬車の整備をしていたコアラ姿のペロッティが言いました。
「全く、強いのか何なのか判らん奴じゃのう」
その圧倒的な素材の山に、ピエタは呆れた様子で呟きました。
「おい、リョウマ。これをカバンで増やして、パパイヤンで売ってくれ」
「ええけど、少し時間がかかるぜよ」
「かまわん。極力増やせっ」
「お主、素材も増やせるのか?」
「うむ。時間はちとかかるが、カバンが増やしてくれるがじゃき」
そう言うと、リョウマはカバンを地面に降ろして開き、素材の山を吸い込んでしまいました。
「なっなんという恐ろしいカバンじゃ・・・。お主、それをワシらに」
「だから売らんと言うちょろうがっ! 賢者様もしつこいお方じゃのうっ」
「むむう・・・」
ピエタはしょんぼりした様子で、倒木にちょこんと座り込んでしまいました。
「では、少し休憩したらパパイヤンに向かいましょう。もう間もなくのはずですからね」
ペロッティが馬車の整備をしながら皆に言いました。
「そうね、行きましょう! いざっパピーヤンのカジノで大当たりっ」
「パパイヤンだろっ。肝を手に入れたんだ。目的を勘違いするなっカジノにはもう寄らんでいい」
「(ギクッ)」
グラウスはアグニを嗜めました。
実はお金が大好きな賢者のピエタは、内心カジノ遊びをとっても楽しみにしていたのでした。
「むっ待てよ・・・リョウマよ、さては・・・べヒーモスの肝も増えておるな? お主が肝に拘ったのはこの為かっ」
勘の鋭いピエタは、リョウマに食って掛かります。
「ギクッそっそそそそげなことはないぜよ、流石に肝は増えんぜよっ」
「嘘をつくでない。モンスターの素材が増えるなら、肝も増えるはずじゃ!
ワシらにはちゃんと増えた分も売ったお金を渡すんじゃぞっ」
「わ・・・わかったぜよ。ちぇ~、せっかくの大もうけが・・・。」
リョウマは残念そうに地面に転がっていた小石を思いっきり蹴りました。
その石はペロッティの後頭部を直撃したのでした・・・。
「あいたっ」
「あ、すまんペロッティ」
「いてて・・・いえ、平気です、リョウマ殿。今度からは気をつけてくださいね・・・」
苦笑いするリョウマに、グラウスが小瓶を持って近づいていきました。
「リョウマ君。実はキミにお願いがあるんだけど」
「お願い? なんだ?」
「この秘霊薬を増やして欲しいんだ」
「秘霊薬? 何だそりゃあ?」
「これを飲むと霊体にも攻撃が出来るようになるんだ。私が調合して作ったんだよ。作るのがちょっと面倒なんだ」
「ほう、ええぞ。ほなカバンで増やしちゃるきに」
「ありがとう」
こうして、アグニ達一行はパパイヤンに向けて馬車を進めることにしたのでした。
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