第22話『時を操りし者』
ペロッティとグラウスは草原に生えた雑草をかき分け、べヒーモスに近づいていきました。
「あんな巨大なべヒーモスは見たことが無い」
「私もですよ、グラウス殿。腕が鳴りますね」
ペロッティはそう言うと、コアラに変身しました。
「その姿で戦うおつもりか?」
「この姿で無いと、使えない能力があるんです」
「ほう・・・」
「では、ペロッティ。参りますっ」
ペロッティはべヒーモスへと向かっていきました。
「支援しますっイグナ・アースウォールッ」
グラウスは疾走するコアラ姿のペロッティに一時的に物理防御力を高める強化魔法をかけました。
その魔法が開戦の合図となり、べヒーモスは自らに近づくペロッティを視認し、襲い掛かってきました。
巨大な体躯にも関わらず、圧倒的な素早さで足踏みをし、近づくペロッティをべヒーモスはけん制しています。
「速い・・・なんとあの巨体で、なんという速さがか。あれじゃ近づけん。ペロッティが踏み潰されるぜよっ」
リョウマが不安そうに状況を見守ります。
「ペロッティめ・・・さてはあれを使う気じゃな」
「あれ?」
「まあ見ておれ」
ペロッティはべヒーモスの振り下ろしてきた前足を俊敏な動きでかわすと、宙に舞い上がりました。
コアラ姿になった小さい彼は非常に回避率が高くなり、通常攻撃をかわせる確率が一気に高くなります。
そしてコアラになったペロッティにはある特殊能力がありました。
それはあらゆる時を操作する、ピエタもグラウスも使用できない時空魔法の力です。
一部の超高位魔族やその混血児、既に絶滅したとされる竜人族の中には、
従来の姿と変身した姿で二つのレベルを持っていることがあります。
残念ながらペロッティは変身してもレベルが変動することはないですが、
代わりに特別な力が使えるようになったのです。
「時よ乱れろ! イグナ・アンプロポス!!」
宙を舞ったペロッティがそう叫ぶと、突然周囲の時が緩やかになり、べヒーモスの動きが鈍り始めました。
「なっなんだ、これは?? 私の腕の動きが、遅くなってる・・・」
自らの体の異変に、グラウスは驚きの表情を浮かべました。
ペロッティの能力の一つ、イグナ・アンプロポスは、周囲の時を大幅に遅らせる、時を操る巨大な力です。
緩やかな時の中で俊敏に動けるのはペロッティだけです。
鈍足になったべヒーモスは持ち前の俊敏さを失い、ゆったりとした咆哮を上げました。
「今です。秘剣、急所百連打!!」
ペロッティはレイピアを取り出すと、動きの遅くなったべヒーモスの頭部の眉間に近づいていき、レイピアで何度も突きを食らわせました。
しかし特殊な魔力防壁によって鋼鉄に近い体で覆われたべヒーモスの皮膚は強靭極まりなく、突いている途中でペロッティのレイピアは撓りすぎて折れてしまいました。
「何!?」
「しまったっペロッティのレイピアが折れてしもうたわいっ」
馬車から見ていたピエタが絶叫しました。
そして不運な事にペロッティの変身能力の効果時間も切れ、イグナ・アンプロポスの効力も無くなり、元の美青年に戻った彼はべヒーモスの格好の餌食となってしまったのです。
べヒーモスは強力な右前足でペロッティに一撃を見舞い、彼を遥か後方にふっ飛ばしました。
「ペロッティ殿~~~~~!」
その一撃は非常に重たく、ペロッティは大きな外傷を受けましたが、幸い補助魔法が効いていたので致命傷には至りませんでした。
「私は、・・・無事です! グラウス殿!! 申し訳ない!! お逃げ下さい!!」
「ぐっ・・・くっそう、化け物め~~っ」
ペロッティの渾身の叫びを無視し、グラウスは巨大なべヒーモスに立ち向かっていきました。
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