第21話『べヒーモスの肝』

それから数日後、一同は広大なモントーヤ領内を越え、ようやくパパイヤンのあるミネルバ領地内に入りました。

 そこで馬車内で寛いでいたリョウマに、グラウスがとある質問をぶつけたのです。


「ところで、リョウマ君。キミと私はどこかで会ったことがないかな?」


 馬車の中でピエタと談笑していたリョウマに、無言で隣に座っていたグラウスがそう語り掛けました。

 

「なっ突然何を言うがか。ウチとおまんは、初対面ぜよっ」


 そういうリョウマの心臓の心拍数は、大幅に上昇していました。


「そうかな、どっかで見たような顔をしているんだがね・・・」

「どういうことじゃ?」


 ピエタは顔に疑問を浮かべてグラウスに尋ねます。


「いえ、今から三年ほど前に、サラバナという国のスセリ姫に取り付いた霊を見ましてね。そのスセリ姫に、リョウマ君はどことなく面影があるというか、なんというか・・・」

「勘違いじゃき。ウチの名前はリョウマ・サイタニぜよ。おまんとは、会った事ないっ」

「そうか・・・勘違いか・・・」

「サラバナか・・・確か世界一の富裕国じゃが、現国王の大変な吝嗇家っぷりから、世界で一番嫌われておる国でもあったのう」

「ええ。私が国を出た後、何でも風の噂でそこの王女、スセリ姫は危険思想に目覚めて国を抜け出し、現在行方不明と聞きました。」

「危険思想じゃと? その彼女に取り付いた霊は除霊しなかったのか?」

「守護霊だったんです。悪影響を及ぼすどころか、むしろ彼女を守っていたほどです。取る必要がなかったので、放置しました」

「ふむう、そうか・・・」

「スセリ姫なら、確か三年ぐらい前にお父様の所にいらしたことがあってよ」

「ギクッ」


 リョウマの心拍数は更に急上昇しました。


「話したのかえ?」

「いいえ、私は直接会っていませんわ」

「(まっまずいぜよ。。。)」


 心臓がバクバク状態のリョウマを乗せた馬車から少し離れた草原を、

 体躯にして二十メートルはあろうかという巨大なべヒーモスが闊歩していました。


 その姿を窓から目ざとく見つけたリョウマは、一同に知らせました。


「あっ!!! あれは、べヒーモスっべヒーモスぜよっ」

「何? ホントじゃ・・・何故こんなところに・・・・」

「まあ、怖いわ」

「なんだ、あのべヒーモスは?! あんな巨大な奴は見たことがない。しかも、レベル、358・・・化けもんだ。ピエタ様、幸いこちらには気がついていないようです。やり過ごしましょう」

「うむ、そうじゃのう」


 ピエタ達の意見が一致し掛けたところに、リョウマが口を挟みました。 


「ちょっと待つぜよ! べヒーモスの肝は生の宝石と呼ばれ、とーーーっても高く売れるんだっ」

「何? 幾らじゃ?」

「通常サイズのべヒーモスの肝なら、パパイヤンで最低でも1000万ジェル。でもウチなら2000万以上で売ってみせるぜよ」

「なんじゃと!? それは真か?」

「うん。しかもあれほどの大物の肝となれば、5000万以上も期待できる。ウチなら7000万ジェル以上で売ってみせるきに」

 

 リョウマは得意げに作った握りこぶしで平たい胸を叩きました。


「よし、殺せっ殺せっあのべヒーモスをっ殺すのじゃーーーーっ」

「ピエタ様・・・落ち着いてくださいっ」 

「レイピアの為じゃいっ」

「商売の本質は金よりも評判じゃき。皆評判の良い店や商人から買いたがるがじゃ。ま、肝の売買はウチに任せるぜよ」

「うむ。頼んだぞ、リョウマよ。ようし、このワシが魔法で瞬殺してやるわい」

「それはいかんぜよ! 下手に魔法を使って肝がレバーになったり傷が付いたら、価値がなくなってまう」

「ではどうしろと言うのじゃ?!」

「べヒーモスの急所は眉間ぜよ。そこを剣で叩き潰すんだ」

「あの巨大なべヒーモスを剣だけで倒せと言うのか?」

「そう。剣で突くか、頭部を跳ね飛ばすぜよ」


 リョウマは真剣な眼差しで主張します。


「むう・・・おい、ゼントよ、出番じゃぞっ戦ってまいれ!」


 ピエタに言われたゼントは起き上がり、こう言いました。


「俺は露払いを引き受けただけだ。自分達から仕掛ける戦となれば、別料金を払うべきだろ?」

「なんじゃと!? ええい、このたかり屋め! もういいわい。お主には、頼まん!!」


 荒れ狂うピエタを見たペロッティは柔和な笑顔で言いました。


「どうやら私の出番のようですね」

「む? ペロッティよ! そなたが狩ってくれるか?」

「無茶です。ペロッティ殿のレベルは301ありますが、それでもあのべヒーモスを下回っています! 危険ですっ」


 グラウスはピエタを必死に制止しました。


「ふん・・・所詮レベル差など、持ちえた武具や能力次第でどうにでもなる。魔法使いが良い例だ」


 ゼントは皆に聞こえるように低音な声質で吐き捨てました。

 魔法使いは生まれ持ったレベルが低いほど強力な魔力を内に秘めている傾向があるのです。

 レベル1のピエタの魔力はパーティー随一ですが、魔法使いにしては圧倒的な高レベルを持つグラウスは稀な存在です。

 更に魔法使いでありながら神の影響でレベルアップ可能なアグニは別格の存在と言えるでしょう。


「ゼント殿の言う通りです。では、行って参ります」


 そう言ってペロッティは馬車を止めると、地面に降り立ちました。


「私も行きます。補助魔法等で、援護します」     

「うむ。二人とも、頼んだぞ! レイピアのためじゃて」


「金の当てが出来たのう、ほにほに。んでピエタ様、売買手数料は10%でいかが?」

「高い、3%じゃ」

「6%!」

「5,5%!」

「むむむ・・5%! これ以下なら、ウチは商いをせんきにっ」

「くっ・・・わかったわい。5%で手を打とう」

「毎度有り~おまんら、頑張るぜよ~~」


 馬車を飛び出したグラウスとペロッティに、リョウマが窓から顔を出して手を振りました。


「全く、能天気なパーティーだなっ」

「お互い苦労しますね」


 ペロッティが笑顔でグラウスにそう言いました。

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