第20話『ボンジョルノ・ミア・マードレ(こんにちはお母さん)』

旅の道中に現れる怪物はグラウス、ペロッティ、剣を抜かず木刀を持ったゼント達三人が致命傷を与え、アグニの魔法で止めを刺すという戦法で容易に片付けていきました。

 その旅の過程でアグニのレベルは10から21へと大きく上昇したのです。


 その夜、パーティーは野営地を張り、皆の介抱役ペロッティが自慢の手料理シチューを仲間達に振舞いました。


「おお、これは、たまるか~~~~」


 リョウマは喜んでがっついています。

 

「蛇と蝙蝠のムニエルが食べたいわ」


 アグニの我侭な要求もペロッティは心得ており、道中で蝙蝠や蛇を手に入れ、アグニだけ特別な料理でもてなしました。


「まあ素敵っありがとう、ペロッティ」

「どう致しまして」


 一同が火を囲み談笑していた頃。

 ゼントは少し離れた所にある巨木に背を預け、

 ペロッティの作ったシチューを口元のフードを下ろしてスプーンで上品に啜っていました。


 口元を露にしたその姿は、絶世の美男子という形容も浮いてしまうほどの代物でした。


 ゼントの様子を見たアグニは、直に立ち上がり、


「きゃああああ絶世の美男子様~~~子種を下さいませ~~~~」


 とゼント目掛けて全力疾走していきました。


「あっおい、アグニ!」


 美青年の前に立つアグニに対し、彼は


「全く、これだから女は嫌いなんだ。気分を害したぞ、慰謝料を払えっ」


 と吐き捨てました。


「すまない、ゼント。アグニはこういう性格なんだ、許してやってくれ」


 と、アグニの首根っこを掴んだグラウスが平謝りし、彼に多少のお金を握らせました。


「ふん・・・少ないが、勘弁してやる」


 ゼントはシチューの注がれた皿に口をつけて大胆に飲み干すと、口元を再びフードで隠してしまいました。


「ああんもう、離して、グラウスッ」

「そんなことより修行だ、修行」


 そしてペロッティ、ピエタ、リョウマが談笑している中、グラウスはアグニを少し野営地から離れた場所に連れて行き、魔法の特訓を始めました。


「いくらレベルアップしても、能力が弱ければ話にならない。お前はまだ未熟だっビシバシ基礎から叩き込んでやる」

「もう、うるさいわね。分かったわよ」


 グラウスの訓練はとても厳しい物でしたが、アグニは弱音を吐かず、受け入れました。

 そして二人は少し休憩することにしたのです。

 

 お互いに地面に折れた樹木に腰掛け、夜空を見ながら、アグニが話題を切り出しました。


「ねえ、グラウス」

「なんだ?」

「あなたの家族はどんな人なの?」



 グラウスの家族。それは実はグラウスの辛い過去の記憶と結びつく物でした。


「それは、あまり言えないな」

「お金なら出すわよ」

「ゼントと一緒にするな、話したくないのさ」


 それから暫くの沈黙の後、アグニが再び語り始めました。


「・・・私は生まれたとき、この体でお母様を殺してしまったの。お父様が優しくなかったら、私は捨てられていたかもしれないわ」

「そうだな。モントーヤ殿の慈悲には感謝しないとな」

「そうね。私、お父様がとても愛しいわ。でも願いが叶うなら、お母様と、お話しがしたかった・・・」

「アグニ・・・」

「永遠に叶わない夢だけどね」

「私も同じ気持ちだよ、アグニ」

「どういう事? あなたには家族がいるでしょう?」

「私も母がおらず、父親に育てられた」

「あら、可愛そう。では私達は同じ境遇なのね」

「そうだな・・・」

「・・・私ね、絶対死にたくないわ。死ぬのが怖くて、たまらないの。生き抜くためなら、どんな厳しい修行も、旅も受け入れるわ。だからグラウス師匠、これからも私を強く育ててねっ」

「勿論だ。言っておくが、私は厳しいぞ」


 グラウスは少し影のある笑みを浮かべました。


「さて、修行再開だ。行くぞ、アグニ」

「はいはい」


 そして修行が終わった夜、アグニは眠る事が出来ませんでした。

 自分がいつ死ぬか解らない。

 その恐怖に怯え、震えていたのです。


「死にたくない・・・私、まだ死にたくない・・・」


 アグニは一人涙を流していました。

 その様子に隣で眠っていたグラウスは気が付きましたが、かけるべき言葉が見つからず、苦悩しました。

 

 とにかく日ノ本へ急ぎ、アグニを助ける事が最優先だ。グラウスは心に強く想いを刻み込みました。


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