第19話『伝説の秘術』
集まった一同は、馬車の中で楽しく談笑していました。唯一、ゼントは戦いになったら起こせと言って、眠りについています。
自らのダンジョン探検譚を楽しそうに身振り手振りを交えて語るリョウマの話に、アグニ達は興味深く聞き入っていました。
「で、うちらの出会いと親愛の印に、ウチがその超危険な仕掛けが沢山あった古城で手に入れたお宝を見せてやるぜよ」
「ほう、一体なんじゃ?」
「楽しみだわ~」
そう言って、リョウマは床に降ろしているカバンの中から一本のレイピアを取り出しました。
「じゃじゃ~~ん! これぞ伝説のレイピアぜよっ」
「伝説の? 私にはただのレイピアにしか見えないが?」
グラウスは疑問気にレイピアを見つめます。
「ふっふっふっおまんの目は節穴じゃき。レイピアに込められた魔力を良~く見るぜよ」
リョウマに言われて、ピエタは見せ付けられたレイピアを凝視しました。
そのレイピアには、魔綬と呼ばれる特殊な能力が込められていたのです。
「お主・・・これは!? 魔綬が込められておるではないか?!」
ピエタは仰天した様子で叫びました。
「魔綬? 一体それは何ですの?」
アグニは興味ぶかげにピエタに尋ねました。
「分かりやすく言えばエンチャントのようなもので、一説には遠い昔に神が人間に教えたとも言われておる。剣や鎧、盾などの無機物に限らず、人間などの有機物、存在する物全てにあらゆる付加価値を付けられる夢のような能力じゃよ。例えば剣に炎属性を魔綬したり、鎧に敵の魔法を跳ね返す魔綬をつけたりする事ができる。効果時間は人体には制限時間があるが、無機物には永続的な効果っ。唯一の欠点をあげるとすれば、魔綬を施すには時間がかかるのじゃ。激しい戦闘中にはとても使えない能力じゃが、事前に戦う相手を見極めて使用すれば、その効果は絶大じゃ。ただ非常に有用な力じゃが、この世界を構築しているマナを多く消費するため、魔綬は禁忌の術とされておってのう。そのためごく一部の民達が集まり、人里離れた場所に集落を作って魔綬をひっそりと使用して暮らしておったそうじゃ。」
「何だか強化魔法と似ていますね」
「その威力は魔法なんかとは桁違いじゃっ」
「その魔綬? がかけられたレイピアが、そんなに貴重なんですの? 量産すればいいだけじゃない」
「馬鹿もんっ魔綬を使える者は、もうこの世界には存在しないんじゃぞっ」
「それってどういうことですの?」
「魔綬には魔族特攻という特別なエンチャントがある。その為魔綬を使える者達が集まった集落は、ワシの蔵書の記録によると、今から500年ほど前に魔族によって滅ぼされてしまったそうじゃ・・・」
「なんてことだ・・・」
「世界を魔族の脅威から打ち消すためには必須の力じゃったのに・・・守れんなんだ・・・人類にとっては多大なる損失じゃのう」
ピエタはとても口惜しそうに言いました。
「ふふ~ん。おまんら、聞くがぜよ。で、このレイピアには、なんとなんとな~~~~んと、その魔物と魔族特攻の2つの魔綬がかけられておるがぜよっ」
「なんですって~~」
「それだけじゃないっなんとゼントの持つその厳つい剣と木刀には神・魔族・魔物・精霊・人間特攻という五つの魔綬がかけられとるきに」
「神特攻じゃと? そんな魔綬聞いたことないぞい。なんという代物じゃ・・・。ゼントの持っている得物も捨てがたいが、使えるものがおらぬ。そのレイピアをペロッティに渡せば、レベル以上の力を授けることが出来るぞい。リョウマよ、そのレイピア、ワシらに譲ってくれぬか?」
「なんだとお??」
「ただとは言わん。金なら払うぞっアグニ、今幾ら持っておる?」
「お父様から2000万ジェル。軍資金として頂いているわ」
2000万ジェルという言葉の目覚ましが、眠っていたゼントを起こしました。
「2000万だと? 護衛料の追加料金を寄越せっ」
「うるさい! ふむ。どうじゃ? 300万、いや、500、500万ジェル出す。リョウマよ、ワシらに売ってくれっ頼む、この通りじゃっ」
「ちょっとピエタ様、お金を出すのはこの私ですわよっ」
「それほど貴重な代物と言っておるのじゃ!」
「ならん。これはパパイヤンで馴染みの商人に超高額で売りつけるつもりの、お宝中のお宝ぜよ。いくらおまんらの頼みでも、売れんっ」
「うーーむ、700万! いいや、1000万っこれでどうじゃ??」
「ですからピエタ様ったら~~~」
ピエタは必死に食い下がります。
「パパイヤンに行けばどんなに安くても5000万ジェル、交渉次第では億の値も期待できる代物ぜよ。流石のおまんらの頼みでも、これだけは売れんっ売れんものは、売れんがじゃ」
リョウマはレイピアを大急ぎでカバンに仕舞い込んでしまいました。
「なんと・・・ではせめてパパイヤンに着くまで貸してくれぬか? そのレイピアをペロッティが使えば、道中が格段に楽になるのじゃ」
「そんなこと言って~、そのまま借りたままにして別れるつもりじゃないがか~? ウチは疑り深いぜよ~?」
「ギクッ。そっそそそ、そんなことは断じてせぬっ。ほれっワシの眼を見ろっ信頼できるじゃろ? 賢者じゃぞっ」
「・・・怪しいがじゃ。悪いがこれは貸せないし、売りもせん。パパイヤンまでお預けぜよっ」
「むむむう・・・ではせめてパパイヤンに着いたらワシらが必ず買うから、それまで売らんでおいてくれ」
「どうするつもりぜよ? 金のあてでもあるがか?」
「パパイヤンのカジノで稼ぐっこれしかあるまいてっ」
ピエタは杖を振り上げて叫びました。
「まあ、カジノ~。今から楽しみだわっ」
アグニはカジノという言葉の響きに、陽気に腕を使って小躍りを始めました。
「ふむ・・・まあ、あまりあてにせずに待つことにするぜよ。ただし、稼げなかったら他所で売るがじゃ。それでよかろうもん?」
「うむ、構わん。博才には自信が、まあ、そこそこ、ちょっとだけ、微妙にあるぞい」
「期待できない・・・」
グラウスは眉をしかめ、小声で呟きました。
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