第18話『大国主と旅商人』
アグニ達を乗せた馬車は草原の道を順調に進んでいきました。道中では幾らかの戦闘がありましたが、グラウスが威力を抑えた魔法でなぎ払い、ペロッティが特殊能力、急所打ちで怪物達全体に致命傷を与え、アグニが得意のイグナ・グラムスで集団に止めを刺すという戦法で経験値を順調に稼いでいきました。
しばらく草原の道を進んだ後、馬車を操縦するペロッティの視界に小柄の少女の姿が入りました。
「おーいぜよ~、おーいぜよ~」
少女は必死に馬車を呼びとめようとしています。
ペロッティはやむ終えず馬車を止めました。
「どうしたのじゃ? ペロッティ」
「いえ、少女が・・・」
ピエタは馬車から降りて少女に視線を向けました。
その少女はショートカットでとても愛くるしい容姿をしていました。オーバーオールの上半身を着崩して、上着は鎖帷子姿。また、オーバーオールの足の丈を膝上まで短く切り、白いハイソックスに絶対領域を見せるという女の子らしく可愛らしい格好していました。そして巨大なリュックサックの右横の止め具には何故か杓子を身に付けています。年にして15歳ほどのその少女は、おーいぜよ、おーいぜよ、と、一同の乗る馬車を必死に呼び止めたのでした。
「何、どうかなさって? また戦闘?」
「いえ、アグニ殿。少女に呼び止められまして」
ピエタはいち早く馬車を降り、少女の下へ向かいました。
「お主、ワシ達に何か用か?」
「ふふん、よくぞ聞いてくれたぜよ。ウチは旅商人のリョウマ・サイタニ。旅をしながら冒険者相手に商売をしちょるぜよ」
「商売?」
「ふふん、この品揃えを見るがじゃき~~~」
リョウマと名乗った少女はリュックを降ろすと、恐ろしい速さで周囲に売り物を置き始め、店を開きだしました。
「どうだっ。武器、防具、道具に魔道具もあるがぜよ。お前さん達旅の者じゃろ? ぜひウチで買っていくがよいがじゃ」
ピエタ達はリョウマの驚くべき早業の開店に目を丸くしました。
それと同時に、リョウマの傍には黒を基調にした装束に口元をフードで隠している者が立っていました。ピエタは右腰元に豪華な装飾が施された鞘に収められたいかつい剣と木刀を挿した琥珀色に輝く瞳をした青年の姿を目に焼き付けました。どうやら彼は左利きのようです。
「そこの者、名は何と申す?」
ピエタは剣士に尋ねました。
「金だ・・」
剣士は酷く低音のしぶい声で、ピエタに不遜な言葉を返しました。
「何?」
「金を払わないなら、名前は教えん」
「なっなんじゃとぉ・・・」
「ああ、彼はゼント・クニヌシ。ウチ専属の用心棒じゃき。頼りになるぜよ」
「おい、勝手に名前を言うな。まあいい、金だ。金さえ貰えれば、俺はお前らも護衛するぞ」
「ゼントの金運は凄いぞ~こいつと居るだけで金の匂いがプンプン匂ってくるぜよ~」
「ふふん、なるほどのう」
「でも今特に欲しいものはございませんわね」
馬車を降りて品物を見定めていたアグニは言いました。
「うむ。路銀は目的地で使う予定じゃからのう。今はあまり使えんわい」
「そげなこといわんでほしいぜよ。ぜひ何か買っていって欲しいがじゃ~」
「ふむ。では魔法力を温存するために、薬草を十個ばかり頂こうかのう」
「まいどあり~」
リョウマはピエタの注文を直に受け入れ、薬草十束を紙袋に詰めて渡しました。
「それと野営地設営用の資材と精密な大陸の地図は無いかえ?」
「資材だな。任せろ」
リョウマはリュックサックから大き目の折りたたまれたテントを取り出しました。
しかし地図は無かったようで、少女は少し残念そうに言いました。
「普通の地図ならあるが、精密な物は生憎在庫を切らしちょる。パパイヤンにあるウチの店なら詳しいのが沢山あるぜよ」
「パパイヤン? お主、パパイヤンで商いをしておるのか?」
「うむ。ウチは品揃えを充実させるために、日夜危険なダンジョンに入り浸ってるんだ。だから店の品揃えには絶対の自信があるぜよ」
「そうですか、確かにこの魔道具は見慣れないものばかりですね」
ペロッティは絹の布の上に綺麗に陳列された魔道具の数々に、興味津々といった様子でした。
「今度またいつ会えるか分からん。欲しい物があったら、今のうちに買っていってほしいぜよ」
ピエタ達三人が品物を物色する中、グラウスはさりげなくリョウマとゼントのレベルを確認しました。
その結果、リョウマはレベル3。
グラウスは少女に憑いている霊を見て、首をかしげました。
「あの霊・・・どこかで見覚えが・・・」
そしてなんとゼントはレベル1923であることが分かったのです
「れっレベル1923だとっ・・・馬鹿なっ?! ピエタ殿、あの剣士・・・」
グラウスはピエタに小声で耳打ちしました。
「うむ、承知しておるぞ、グラウスよ。ところでお主らはどこへ向かっておるんじゃ?」
「ウチはパパイヤンに戻って商いをして、その後はとある国のダンジョンに向かう予定じゃき。そこにはお宝の眠るダンジョンが沢山存在するらしいぜよ。考えただけで、もう、たまるかーーっ」
「パパイヤンとは、目的地が一緒じゃのう。どうじゃ、道中ワシらと一緒に来ぬか? 仲間は多い方がよい。道具屋と護衛は何かと便利じゃからのう」
「おお、それは幸運。ぜひ一緒に行くがぜよ。歩くのも疲れたしな。ゼントもそれでよっかろうもん?」
「金だ・・・金を貰わなければ、俺はここを動かん」
「なっなんじゃとぉっ」
「全くもう。ほれ、ウチが払っちゃるきに。これで何とか」
リョウマは少しふてくされた表情でゼントに袖の下を握らせました。
「ふむ・・・いいだろう。パパイヤンまでお前達を護衛してやる」
「宜しく頼むぞい、リョウマ、ゼントよ」
「あいあいさ~」
「ふん・・・」
こうして、旅の仲間に一時的に旅商人リョウマ・サイタニとその護衛人ゼント・クニヌシが加わりました。
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