第17話『滅びの記録』
ジャスタールを抜けてラズルシャーチに向かうとピエタから聞いたグラウスは、再び一つの疑問を覚え、賢者様に尋ねることにしました。
「ピエタ殿」
「今度はなんじゃ、グラウスよ」
「失礼ですが、私がジャスタールにやってきたとき、賢者様は違法な研究をして国を追放されたと伺いました。一体何を研究されていたのですか?」
「ふむ・・・そのことか。少し長い話になるが、聞きたいか?」
「ええ、後学のためにも」
ピエタは少し押し黙った後、ゆっくりと語り始めました。
「今から3000年程前、この世界に神が書いたとされる書物が人間界に落ちてきた。その書物には膨大な魔力が内包されており、禁忌の術が多数記載されておったそうじゃ。だがそれは、人間の力ではページをめくることすらとてもままならず、めくった者は呪いにかかって皆死んでしまったそうじゃ。そういった経緯から、その書物は滅びの記録と呼ばれ、世界中の国々が協力して封印することに決めたのじゃ。じゃが封印を手掛けることになった当時、世界一と呼ばれた賢者マクドリアですらその魔力を御せず、封印するために書物に記載された一節を使用して詠唱を始めてしまったそうじゃ。その結果、世界中で生物大転移が起こり、一部の人間はその猛毒に耐えきったが、多くの人々は魔獣に姿を変えられてしまい、そして人間だけだった世界に魔族やエルフ、獣人族、ゴブリン等、様々な種族が生まれたのじゃ。更に世界にマナと世界樹が生まれた。魔族の力の源は今も詠唱され続けている書物の魔力の力じゃ。だが生物大転移が起こる過程で奇跡的に生き残った人間の中に、禁忌の魔力が内包された純潔の血を持つ者達が現れた。ところがその者達は滅びの記録の禁術を深く体内に宿すため、世界中の人々に迫害され、ときには都合よく利用されてしまった。何をかくそう、このワシもその純潔の血を引く生き残りの一人なのじゃよ。滅びの記録は今も世界のどこかに存在し、開かれたまま詠唱を続けておるが、ジャスタールでは禁忌としてその後の行方の研究を禁じてしまった。しかしワシは独自に研究を続けていたために」
「追放されてしまったのですね、ピエタ殿・・・」
「うむ。純潔の血を持つ者への扱いは冷淡じゃからの・・・」
「そのマクドリアっていう賢者はどうなさったの?」
「わからぬ。今も生きているのか、生物大転移で異形の物になったのか・・・その研究中に追放されてしまったからのう」
「遠い昔の話です。流石に生きてはいないでしょう」
「うむ、そうじゃの。ワシの人生の大きな目的は、今も世界のどこかで詠唱を続けているその滅びの記録を完全に封印し、人間達だけの世界を取り戻すことじゃ。そのために長い年月をかけて独自に研究を続けてきたが、座学と読書では流石に限界があってのう」
「だから私達と旅をすることにしましたの?」
「うむ。現在の一番の目的はアグニを日ノ本に連れて行くことじゃが、旅をする過程で滅びの記録の情報を得られるかもしれんからの。ま、さしずめこの話はサブクエストといったところかのう、ほほほほほ」
「私も旅の過程でレベルアップの方法が解ればと考えてアグニに同行することを決めたのですが・・・賢者様の目的は更に壮大ですね。サブクエストにしては世界の創世に関わる、とても規模の大きな話です」
グラウスは眉をひそめて言いました。
「おっほっほ。ワシらのことは置いといて、とにかくまずはアグニの目的が最優先じゃ。旅を頑張るぞ、皆の者」
快活にそう語るピエタに、一同は納得したように声を上げました。
※次回、新キャラ登場。お楽しみに!
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