第15話プロローグ最終:旅立ちの朝

 旅立ちの朝、アグニ達一同はモントーヤ邸の庭園に集結しました。

「いよいよ、旅に出るのね」

「とても長く厳しい旅になるじゃろう。今のうちに父上としっかり話しておくがよいぞ」


 ピエタに言われたとおり、アグニはモントーヤと抱き合い、しばしの別れを惜しみ合いました。


「おお、私の可愛いアグニよ。ほれ、これは軍資金だ」


 モントーヤはアグニに二千万ジェルの軍資金の入った小袋を手渡しました。


「ありがとうお父様」

「必ず生きて帰って来るんだぞ」

「解ってます。お父様こそ、お体ご自愛くださいませ」

「魔族の類とはくれぐれも関わりを持つんじゃないぞ、どいつもこいつも醜い連中じゃからの」

「分かっていますわ、お父様」


 モントーヤの魔族に対するさりげない物言いに、ピエタはかすかに眉を細めました。


「親というものは、良い物ですね」


 ペロッティが呟きます。


アグニの旅立ちを受けて、モントーヤ州兵達や使用人、執事達が集まり始めました。


「あら、みんなっ見送りに来てくれたの?」

「アグニ殿、ご武運をっ」

 州兵達は隊列を組んで並び、アグニ達に全員息を揃えて敬礼をしました。

その中には眠りの森でアグニの護衛についた兵士、ドンとボンの姿もありました。


「お嬢様。この度は寛大な処置を賜り、真に恐縮の極みにございますっ」

 腕を胸に当て、真っ先に逃げたドンがアグニに向かって叫びます。

「今度こそ、モントーヤの為に命を殉ずる覚悟にございますっ」

 ドンに続いてボンも叫びました。

「いいのよ、二人とも、命は大事にして。でも、お父様の事はキチンと守ってね」

「はいっ無事にお嬢様がお戻りになられた暁には私どもの子種を差し上げますっ」

「うん、それは要らないわ」

「さようでしたかっ」


 ドンとボンはアグニに敬礼しました。


 そこへ、ドンとボンを押しのけて前へ出てきたアグニの乳母が、アグニに近づいてきました。


「お嬢様、必ず生きて戻って来てくださいね。私は待っておりますよ」


「オマル。ええ、もちろんよ。必ず戻ってくるわ、必ずねっ」


 アグニは乳母と抱き合い、しばしの別れを惜しみました。


「いよいよ冒険の始まりですね。武者震いしてきましたよ」


ペロッティは腰に下げたレイピアに手をかけました。


「ペロッティ、グラウス。戦闘はそなた達に任せたぞ。何せアグニをレベルアップさせなければならないのだからな。道中の敵をバンバン倒していかないと困るぞい」


「賢者様は戦わないのですか」

「ワシの魔法では瞬殺してしまう。アグニに止めを刺させないと経験値は大幅に入らん。グラウス、お主も手加減するのじゃぞ」

「承知しました」


さっそく一同はモントーヤが用意した豪華な装飾と幌で覆われた大きな馬車に乗り込みました。

ペロッティが馬車の馬を御者の役を買って出ることにしました。


「一体最初はどこへ向かうの?」

「目標は東、まずはパパイヤンに向かうぞ」

「パパイヤン?」

「今から三年ほど前に誕生した王の居ない自由都市、遊戯の街と呼ばれてる場所じゃ。モントーヤ州の隣、ミネルバ州にある。王の代わりに有力な商人達が集まって政をしておる。セレブたちが多く住んでおり、色んな人が行き交い、情報も集まっておる。武具や道具の品揃えも最高級じゃ。カジノのメッカでもあるぞ。旅支度と情報収集には丁度良い場所なのじゃ」

「カジノ?! まあ楽しそう。今から楽しみだわ~」


 モントーヤ領から出たことの無いアグニは見知らぬ土地の存在に心を躍らせていました。

 

 こうして、アグニ達の冒険の旅が始まったのです。


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