第11話プロローグ:合法賢者

戦闘が終わり、自らの衣類についた泥を払うと、


アグニはグラウスよりいち早く巨木に近づき、ドアのノブを掴みました。


そして扉を開け、中に入っていったのです。




 巨木の中は様々な色のカラフルな家具に包まれていました。




「まあ、素敵」




 アグニは素直に部屋の美しさを賞賛しました。




 すると室内の左側にある階段からとても美しい容貌をした青年が降りてきました。




「ようこそいらっしゃいました。お客人」




 丁寧な所作で挨拶をしてくる美青年に、ハートを打ち抜かれたアグニは即近づき腕を掴んで、




「あなたの子種を私に下さいませ」




 と言ったのです。それを見たグラウスは呆れて物も言えないといった表情をしました。




「ふふふ、流石一流のお嬢様は冗談がお上手ですね」


「いいえ、これは本気ですことよ。さあ、今すぐ」




 グラウスは必死に食い下がるアグニの首根っこを掴み、自らの下へ引き寄せました。




「いい加減にしろ、アグニ。賢者様に失礼だろ」




 グラウスの言葉を聞いた美青年はこう言いました。




「お二人は賢者様に御用ですか? 生憎私は賢者ではありません。

賢者様の身の回りの世話をする只の使用人です」




 それに対してグラウスは




「使用人? 賢者様は男だと伺っておりますが」




「いいえ、賢者様は女性です。それに私は」




 背の高い美青年の容貌が見る見るうちに変わっていき、なんと小さなコアラの姿になりました。


「これが私の本当の」


 それを見たアグニは、




「ぎゃあああ、獣人族よ! 汚らわしいっクタバレ、クソコアラ」


 なんとコアラに変身した美青年の脇腹を蹴り始めました。


「あうう」


「おい、止めろ、アグニ」


 コアラはたまらず元の美青年の姿に戻りました。


「あなたの子種を私にくださいませ」


 アグニは掌を返して子種を懇願しました。


 美青年は再びコアラに戻りました。


「クタバレ、クソッタレコワラッオラッオラッ」


 アグニは掌を返して美青年を蹴り始めました。


 コアラは元の美青年の姿に戻りました。


「子種をくださいませ~」


 美青年は再びコアラに戻りました。


「クタバレ、クソッタレコワラッオラッオラッ」


 コアラは元の美青年の姿に戻りました。


「子種をくださいませ~」


美青年は再びコアラに戻りました。。


「クタバレ、クソッタレコワラッオラッオラッ」


 コアラは元の美青年の姿に戻りました。


「子種をくださいませ~」


美青年は再びコアラに戻りました。


「クタバレ、クソッタレコワラ」


 コアラは元の美青年の姿に戻りました。


「子種をくださいませ~」




 暫く同じような問答が続いた後、階段の上から少女と言うにも幼い子供の声が聞こえてきました。




「これ、そこの者、我の使用人を苛めるでないぞ」




「何?」




「誰だ」




 ゆっくりと階段を下りてきたのは、少女というにはあまりにも幼い、人間年齢にして7~8歳ほどの幼女でした。


 極上の絹で編んだローブを身にまとい、右手には先端に丸い宝石のついた杖を持っています。




「かっ・・・彼女こそ崇高なる賢者、ピエタ様です。うう」




 ボロボロになりながら、美青年の姿に戻ったコアラがそう言いました。




「何、だと・・・」




「あのおチビちゃんが?」


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