第19話『寝取られ男と劣等感に堕ちた男の戦い』
「死んでしまええええ!」
ナイフを、蹴り飛ばす。
そしてそのままタックルを繰り出して金髪兄へと体をぶつける。
「がっ!?」
「てめぇがふざけたこと言えなくなるまで、俺がぶっ叩いてやる!」
黄昏の光の差し込む廊下で、俺は歯を食いしばりながら血まみれの右手を握りしめた。両手を構え、格闘の体勢になる。
「俺を、俺に攻撃したなッ!」
「あぁ、攻撃したさ!もうお前みたいなやつに我慢する必要はない!」
金髪兄が起き上がり殴りかかってくる……が。
だが、その後に金髪兄は壁へと叩きつけられた。
俺の右腕が、熱く殴った感覚に苛まれている。
金髪兄は獣のような目と叫びをしながら俺に掴みかかってきた。
「な、ぐったな!」
「確かに殴った!だが、俺はあいにく右腕をお前に切られてるもんでな!まだその借りは返せてないぞ!」
馬乗りで金髪兄から頬を滅多殴りにされるが、大したもんではない。まだ馬車のがお前のパンチより強かったぞ!
カウンター代わりに思い切り金髪兄の腹部を蹴る。
そして怯んだ金髪兄の隙を突いて立ち上がり、素早く回し蹴りで金髪兄の顔を蹴り飛ばした。
「ごっ、がっ!」
「お前に、人の痛みがわかるのか!理不尽に殴られて、必死に謝る人間の気持ちがわかるのか!」
前世でドブさらいだった頃。
俺は母さんの薬代を稼ぐために、必死に真面目に仕事をしていた。ドブさらいだって立派な仕事。そう思って歯を食いしばって働いてきた。
だがある日、まるで顔見知りでもない貴族の息子に唐突に殴られた。
いわく、ドブさらいは人間ではないから。そしてドブさらいが公道を歩くこと自体がおかしいから、らしい。
いくら貴族の権力が帝国よりも絶対的ではないとはいえ、法律は貴族の方に優しいのが世界の共通だ。俺みたいなドブさらいが反撃でもすれば牢屋に入れられるだろう。
だから、その貴族のボンボンが俺を殴っている中で俺はひたすら謝って、謝って、事が去るまで耐えていた。
結局のところ、俺はそいつから日の稼ぎまで奪われて小遣いの足しにされてしまった。
だから、この目の前の男が許せない。
庶子だから、血統が兄の自分よりも優れているから、たぶん自分のことを見下しているから。そんな曖昧なことで、人を殴っていい理由などあるはずがないだろう!
先程、金髪兄にされたように俺もこいつに馬乗りになる。
先程頭を蹴り飛ばされたせいで意識が朦朧としてるのか、大した抵抗もない。
「や、やめろ!お、おれは貴族、だぞ!」
「平民が、ごぼっ!?ごべっ!?や、やめ、がっ!?」
まずは一発、そして二発、更に三発。
そうやって金髪兄の顔面をひたすらに殴る。
顔に残る?将来が心配?妹を自分の妄想を根拠に殴り、人にナイフを簡単に向けられるような人間にそんなこと許されるはずがない。
「が、え、や、やめて」
「あ?」
「わ、るかった、ゆ、ゆるじ、で」
ふと見れば、金髪兄がぼろぼろと泣いていた。
さっきまでやけに威勢がよかったのに、急にどうしたんだ。
そんなので、許すわけがないだろう。
殴る。
殴る。
殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。
ひたすらに、殴り続ける。
カラスの声と蝉の音が混じった夕焼けの中で、時が止まったような城の廊下で、俺は金髪兄を殴り続けた。
「こ、ひゅ、こひゅー」
金髪兄の顔は、もはや区別がつかないほどに腫れてボロボロになっていた。
まだ、だ。まだ、まだだ。
ふと、俺の目に入る。
床に転がった装飾の施されたナイフ。その刃には未だ湿った血がいくつか付着している。
「ひ、ひっ!?や、やめふぇくひぇ、た、たひゅへて、ひ、ひひうえ、は、ははふえ!」
「なぁ。死ぬ感覚ってどんなのだと思う?」
ナイフに近づき、拾う。
刃が、やけに赤く光っていた。
「俺はさ、死んだことあるんだ。寒くて、痛くて、辛くて、泣きたくて、ひどいくらいに悲しいんだ」
「た、たひゅひぇて、も、もうひゃらないはら」
「なぁ」
ナイフを、逆手に握る。
おそらく、俺の顔はとんでもなくこいつからは恐ろしく見えてるんだろう。実際、今からやろうとしてることはとんでもなく恐ろしいことだ。
「もう、終わろうぜ」
幼馴染を寝取られて追放された男は人生をリセットする〜二度目の人生では最強になった件〜 @shololompa
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