SS置き場

みつき

のろし

拝啓

 お父様、お母様、お元気でしょうか。こうして手紙を送るのも、これで最後になるでしょう。



 薄暗い部屋の隅に設けられた木でできた椅子に座り、同じく木で作られた簡素な机の上で、私は両親に宛てた手紙を書いていた。

 この部屋を照らす明かりは、壁の上方にある四角く切り取られた穴から差し込む光だけだ。石がむき出しの壁と床、そして黒光りする鉄格子。私の足には鉄でできた足枷がつけられていた。



 ——王の圧政を打破し、この国を変えるために尽力してきましたが、どうやら私はここまでのようです。罠にはまり、捕らえられてしまいました。

 


 多くの人々が集う噴水広場の中心にある大きな掲示板。そこに貼られた様々な掲示物の中に少女が描かれたものがあった。


犯罪人 ーーーーー

 国家叛逆を企てたとして上記の者を斬首刑に処す。執行は明朝、この噴水広場にて行う。



 夜をむかえ、真っ暗な牢屋の中には私一人だけ。次の朝が最後の朝だと思うと、忘れていた恐怖がゆっくりと近づいてくる。

 怖い。死ぬのが怖い。どうしてこんなことになってしまったのだろうか。どうして私が死ななければいけないのか。もっと生きたかった。おしゃれをして、町に出かけて、恋人をつくって、結婚もして、夫と子どもと一緒に暮らす、そんな人並みの幸せが欲しかっただけなのに。嫌だ。死にたくない。まだ、死にたくない。死にたくないよぉ......。

 ベッドの上でガクガクと震えていた。震えを抑えようと体を抱きかかえるも意味はなく、体の震えがおさまることはなかった。

 私はただ神に縋りつくしかなかった。どうか私をお救いくださいと。どうか仲間を、家族をお救いくださいと。どうかこの国をお救いくださいと。ただ神に祈ることしかできなかった。



 そして、朝が来た。全てが終わる。



 ——たくさん泣きました。自分の運命を呪ったこともありました。自らの選択を後悔もしました。

 けれども、私は、私の歩んだ人生を、誇りに思っています。



 看守に連れられて、私は処刑台を登る。頂上からは広場がよく見渡せた。広場を埋め尽くすほどの多くの人が集っていた。人々はみな、暗くくすんだ瞳をしており、顔には覇気がない。

「最後に、何か言い残すことは?」

看守が私に問いかける。私は広場の民衆を見渡し、堂々と口を開いた。

「私は今、とても恐ろしいです。死ぬことが恐ろしいのではありません。私が死んだ後も、この国がこの国であり続けることが、とても恐ろしいのです。ああ、神よ。どうか、私の死をもって、この国の民に勇気と希望をお与えください。どうか、この国をお救いください。」

 そして、剣が振り下ろされた。



 ——お父様、お母様、先行く私をどうか許してください。

 この国の未来に祝福があらんことを。



 人々の瞳には光が灯っていた。

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SS置き場 みつき @mtk309

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