6-8 月が昇る


 クレーターの底に降り立つ。大地から光の粒子が溢れて天の昇っている。

 もう、突き刺すような痛みはない。ただ、穏やかな香りだけが世界に溢れている。


「これで、終わりなのかな」


 呟いた言葉に、寂し気な声が答えた。


「うん、そうかも。アタシも、そうかも」


 マリの身体からも光の粒子は溢れていた。

 それが何を意味するか、僕にも分かっている。

 耳に、砂時計の砂が落ちる音が入ってくる。

 それの意味を否定していけれど、ただの人には変える事なんて出来ない。

 

「なんか。アタシも満足しちゃったかも。やれることをやりきったって言うか……なんか言葉にならないや」


 はにかみ笑いは少しだけ悲しくて、声にもいつもの明るさが無かった。


「……ありがと」


 僕は、今、どんな顔をしているんだろう。

 自分でも泣いているのか笑っているのか分からない。


「だって、分かったんだもん。二人は一生忘れないでしょ。最高のアイドルがここに居たんだってこと。それだけの存在になれたのなら、きっとアタシは大丈夫」


 女神様は泣いていた。しゃくりあげながら、なんとか言葉を出そうとしていた。


「だったら、"きっと"寂しくない」


 強がりを言った顔が光に包まれる。

 もう、どんな顔をしているか分からない。

 だから、僕も強がりをする。

 笑顔で、君と出会えてよかったと言えるように、笑う。


「ありがと」

「……ありがとうっ!!」


 だから、最後に精一杯の感謝の言葉を残した。


「君が最後に踊った時、海が見えたんだ」


 踊っている時、確かに見えた。


「僕はこの世界の海を知らない。だけど、君は海の町で生まれたって言った。そこで見て来た景色が、潮の香りが、波の囁きが――全部見えた」


 光に包まれた顔が、笑っているように見えた。


「ありがとう。この世界を僕に教えてくれて、本当にありがとう!」


 そうして、マリを形作っていた光は空へと昇っていく。

 人の形は僕たちだけ。女神様と僕の影だけが残っている。


 きっと、伝わっている筈。

 空に昇る光の粒に、何度も何度も叫び続ける。


 黄昏の空に夜の帳が降りる。

 光の粒子は星になり、中天に集まると月のように丸く輝き続ける。


 世界に夜が訪れる。

 黄昏が終わり、身を休めるための闇が訪れる。

 真っ暗な世界かもしれない。だけど、怖くない。怖がる必要はない。

 いつか夜は明けて、朝が来る。

 それまでの道標は、女神様が居る。


 生まれ変わった世界に、朝が来た時、どんな景色が広がっている。

 きっと、マリが歌ったような景色が広がっているんだ。

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