6-3 融合の中心地
汽車を降りれば、あとは自分の足を信じて歩くだけだ。
幸い、道はある。それに、方角は分かる。
「建物の歪みが、そのまま中心地への道標になっている」
曲がりくねった道を歩き、歪んだビルの下を歩く。
歩いている間、マリは何も言わなかった。
神殿で見つけた聖典をギュッと抱きしめて、僕の後ろで小さく身を縮めながら歩いている。
声をかけたいところだけど、あいにく僕にも余裕はなかった。残っている残留思念が無視できない濃度になってきたのだ。
いよいよ、この地に遺された意思が勝手に頭に語り変えてくるようになった。
――死にたくない――
――どうして――
――助けて――
対話にもならない叫び声は飛び散ったガラス片みたいに頭に突き刺さってくる。
眩暈がした。だけど足を止めたくはない。
気を抜いたら、一瞬で気絶してしまうだろう。
そうして、ようやくたどり着いた。
ビルの谷間を抜けた先に、円形に広がる広場――いや、クレーターがあった。
すり鉢の中心からネジのような模様が広がっている。
「あれって……」
そして、その真ん中には黒い球体があった。
泥のように流動する模様。時折マグマのように黒い液体が噴き出している。
太陽が真黒になれば、こんな感じだろうか。
『これが、死にきれなかった魂――』
「ええ、そして、この世界が再生するのを妨害しているのもこの魂です」
声にならない叫びは、まだ止まらない。
まだ死にたくないと言っている。だから、女神様が世界を再構築するのも許そうとしない。
『うっ、背中の翼が囁いているのだわ。ここが正念場だって』
背中の翼。そうか、女神様は僕の世界まで追いかけて来た死者の意志を羽に封印している。
それが戦慄いている。となると、女神様にも肉体的、精神的な異常が出てくる可能性がある。
一気にやるしかない。どれほどの消耗が在るかは分からないけれど、僕たちは元より、女神様にも時間をかけている余裕はない。
「エイキチ、どうするの」
不安げな瞳でマリが僕を見る。
精一杯の強がりで笑ってみせた。大丈夫、男の子はこういう時に見栄を張る物だから。
だから――始めよう。
「
両手を広げて黒い魂に意思を向ける。
ドロドロとした魂が僕を飲み込もうとしてくる。
だけど、怖がってなんていられない。
「
読み込みを始めた瞬間、強烈な衝撃が頭に走った。
小さな道を無理やりこじ開けるような痛み。内側から食い破られるような痛み。
情報量が多すぎる。それに、今までのように好意的に話しかけてくれない。無理やり流し込んで来るような暴力性だ。
「――っ!!」
「エイキチ、無理しないで!」
ダメだ、完全に顔に出てるっぽい。正直に言う、痛い。
だけど。ここで無茶をしないでいつ無茶をするんだ。
僕は力を持っている。少なくとも、この世界をどうにかするための力がある。
なら、その力に見合う努力をしないといけない。
特別なことなんかじゃない。
たまたま、僕は死者の声を聴くことが出来るだけだ。
自分に出来ることを、全力でやるだけだ!
「はぁぁぁぁっ!」
理性で痛みを抑え、襲い掛かる情報量の暴風を『力』で押さえつける。
少しずつでいい。声を聴かせてくれ。
「
目の前で稲妻が走ったように、光が弾ける。
自分だけが見た幻だ。だけど眼が冴える。
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