5-7 大地のリズム
大地に手を当てる。
硬くて乾いた感触が手の平に伝わってくる。
「
静かに形を呼び起こす。
大地に草が生え、木々に彩が戻る……何回目だ、これ。
賢樹からの願いと言うのは、この周辺の森を元に戻して欲しい、と言う事だった。
こちらとしても貴重な情報をもらった以上、何かお返しをしたい。と言うことで、ホイホイOKしてしまった……してしまったのだ。
「広いよ……」
後ろを振り返る。鬱蒼と生い茂る木々が微かに揺れている。視界が閉ざされていることもあり、見渡すことは出来ないが、徒歩で行けば半日以上かかる範囲を復活させてきた。
前を見る。荒野と枯れ木が広がっている……いうまでもなく、滅茶苦茶広い。
これまでの作業をと樹から読み取った記憶から予想できる森の範囲を考えると、作業は三日はかかるだろう。
……安請け合いしすぎたかもしれない。
だけど、僕も男だ。約束は守るよ。
◆◆◆
気が付けば日が暮れたいた……いや、ずっと黄昏だ。
一日の終わり――と言うか起きてからだいたい16時間は経過したので休むことにした。
とりあえず、汽車に戻ろう。野宿よりはマシだろう。
汽車に戻る道すがら、何かが聞こえて来た。
微かに音が聞こえる。話しているにしては、随分とメロディアスだ。
「歌?」
歌声の主はすぐに分かった。
線路の淵に座ったマリが、黄昏の空を見ながら歌っていた。
歌詞もメロディも、神殿聞いた物とは違う。
もっと、素朴な歌だ。
「その歌は?」
「森が教えてくれたんだ」
「森が?」
「ほら、耳をすませて」
マリは人差し指を口にあてて、静かに、と合図をする。
僕はただ、静かに耳を澄ませる。
微かに、葉が揺れる音がする。
あの鈍い音は、枝がこすれて木肌が削れたのだろうか。
「ほら。分かるよね。みんな歌ってる」
確かに、これは歌っているのかもしれない。
いや、そうだろう。
「聖典に書いてあったんだ。最初は歌と呼べるものなんて世界に存在しなかった。風や水が流れる音。石が転がり、葉が重なったり、僅かに音があるだけ。
だけど、それが不思議と心地よくて自分たちも出せないかって人は言ってた。
世界の大きさを、大地の優しさを。森の営みを――それが、歌になったって」
そう語るマリは、本当に巫女なんだと思った。
この世界そのものに感謝をして、その素晴らしさを伝える。
超自然――神と人を繋ぐもの。
黄昏の空を見上げるその横顔は、いつもより大人っぽく見えた。
「ほら」
もっと耳を澄ませる。
今度は、大地が軋む音がした。
「……懐かしいな」
ゴリラが、すぐ傍に立っていた。
「森が歌っているのは、いつ以来だろう」
「……そっか。やっぱり、歌っているんだね」
それなら、今日一日クタクタになったのにも意味はあるんだろう。
夜と言うには明るすぎる黄昏の空。
星も見えないけれど、みんなと一緒に見上げていると、心が静まっていくのを感じる。
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