5章 大地の声、聞き届けるのは女神

5-1 路の先に待つのは何か


 黄昏の世界を汽車は行く。

 僕たちを乗せ、風をきって走っていく。歩きであれば数日はかかっていたであろう距離も一気に走り抜けていく。勇ましい汽笛は動けることを喜んでいるみたいだった。

 それともう一つ、助かったことがある。

 汽車が走り出して暫くして、古びた倉庫の前で止まった。

 なんとか動かせないかと試してみたが、まったく動かない。仕方なく周囲を調べていたら、壊れた客車が見つかった。

 もちろん再生をした。すると、自然に動き出して汽車に連結をしたのだ。

 

 寝床の確保は非常に有難い。僕一人であれば野宿にも慣れているが、マリはそうではない。だいいち、長い道を僕と同じペースで歩くことも出来ないだろう。


 ただ、不安もある。

 この汽車は、僕たちをどこに連れて行こうと言うのだろうか。

 不安を抱えているのは、僕だけではない。


『エイキチは、この列車がどこに向かうと思うのだわ』


 女神様でも不安に思うのも無理はない。最悪のパターンを考えれば、このまま暴走をし続ける可能性もある。

 物がひとりでに動き出す現象は、地球でも普通にある。

 誰も居ないのに演奏を始めるピアノが学校の怪談になるのなんて序の口で、幽霊船と呼ばれる廃船が、海難事故で死んだ亡霊を取り込んで航海中の船にぶつかった事故もある。


「正直に言うとわかりません……ただ」


 線路を歩いている内に、少しだけ感じたことが在る。


「線路も電車も、なんか出来過ぎている気がしません?」

『と、言うと』

「まるで、どこかに誘導されているような。来てほしいと誰かが呼んでいるような気がするんです」


 僕たちが歩いた道が黄昏の空に溶けていく。

 まるで、役目を終えたように消えていく。

 路の役目はなんだろう。場所と場所を繋ぐためだ。

 なら、この世界に遺された路はどんな役目を持っているのだろうか。

 誰かに、来て欲しい場所が在って、それを遺しているのではないか。


『うーん……でも、そうね、女神としてもそれに従うのが一番だと思うの」

「でも、何かあったらすぐに呼び戻してくださいよ」

『ええ、もちろんなのだわ』


 車窓から外を見る。一面に広がる黄昏は、まるで海のようだった。

 マリは神殿で手に入れた本をずっと読みこんでいる。一度踊ろうとしたが、揺れる車内ではバランスを取れない。一度、顔面からクラッシュする事件が起こって以来、大人しくしている。


◆◆◆


 汽車に乗ってから72時間程経過したころ、異変は起こった。

 ちょうど客車で休憩していた僕たちには、何も予想できなかった……と言うより、油断してた。


 急に、停車したのだ。

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