4-6 変化
これからどうするか、マリに聞いたら答えはすぐに返って来た。
「一緒に行くよ。せっかく形になれるくらいなんだから、最後まで見届けたい」
堂々と、少女は言い放つ。
「それに、これから先、アタシみたいにハッキリとした自我を持った人もいるかもしれない。
その人に、アタシの歌と踊りを見てもらう。
アタシは歌と踊りが好き。そして、それを見て褒めてもらうのも大好き。それだけで、理由は十分でしょ」
「うん、十分すぎる」
そう、鎮めるとか祓うとか面倒なことを考えるのは僕だけで充分。
最期まで、君が満足できるように歩いていけばいい。その方角が、今はたまたま重なっているだけなんだから。
◆◆◆
神殿を出ると、世界に変化が訪れた。
もう、聞きなれた砂時計の砂が落ちる音。真っ白の神殿が光となって黄昏の世界へと溶けていく。
「……ありがとう、神様」
マリが手を合わせる。僕も同じように、静かに祈りを重ねた。
女神様は何も言っていない。だけど、きっと僕たちと同じつもりだろう。
どれくらい、目を閉じていただろうか。
「っ!?」
爆発音とも違う、何かがあふれ出る音。
例えるなら、蒸気が噴き出すような音が響いた。
『二人とも、駅の方を見て』
女神様に促されて駅の方を見る。すると、紫色の煙が立ち上っていた。
何かが起こっている――この世界に、変化が起こっている。
「急ごう!」
返事も待たずに走り出す。
置いていく、と言うと聞こえが悪いけれど、今は先行したい。
「あ、待って。あー、ここに――」
マリには悪いけれど、急いで確認したい。
この世界は既に死んでいて、変化が僕が行動した痕跡以外にはなかった。
それなのに、僕の手から離れた状態で大きな変化があった。
『そんなに慌てて、不味い事なの?』
「いえ、その逆です」
何かが動こうとしている。
たとえそれが自分たちに危害を与える存在だとしても、悪い事じゃない。
迷路のような街を駆け抜ける。
大丈夫、来た時の路は覚えている――覚えている――うん、そうだよな。
なら、なんで目の前は行き止まりなんだろう。
いや、そりゃそうだ。当たり前だな。
「ごめん、迷った」
ダメだこりゃ。やっぱり土地勘がないのに無理をしちゃだめだな。
だからマリ、そんな顔でこっちに来ないで。
◆◆◆
結局、マリの案内で道を戻ることになった。
「まったく。勝手に飛び出さないでよ。合流できなかったらどうするつもりなの」
「面目ありません」
いや、つい興奮してしまった。
マリと出会う以外、この世界には何の変化もなかった。それでつい興奮して足が動いていた。
「その様子だったら、これに気が付かなかったでしょ」
そう言って、マリは一切れのメモを僕に手渡した。
「これは?」
「神殿の跡に残っていたの。文字も掠れていて読めないけれど、エイキチの力ならなんとかできるんじゃないの?」
「うん、確かに。やってみるよ」
意識を集中して物体の記憶を呼び覚ます。
解析はすぐに完了した。
「
一片の紙切れは光に包まれると、本の形へと広がっていく。
光が消え去ると、そこには分厚い表紙のしっかりとした本があった。
「うわー! これって聖典じゃない。歌と踊りの」
うん、確かに表紙にもそう抱えている。
「ねえ、アタシにくれるんでしょ?」
「うん、もちろん。君が持っていた方がいいよ」
本を差し出すと、ひったくるみたいに取り上げられた。
それくらい、彼女にとって重要なモノなんだろう。
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