4-3 骨拾い


 僕は物を復元できる。

 だけど、戻せるのは物だけじゃない。

 生物であっても、生きていた時の形に戻すことが出来る。

 そして、条件さえそろえば、意思さえも復元することが出来るのだ。


 骨から広がった光収束していく。

 赤みがかった茶色の長い髪。女性の顔が見えてくる。

 服は振袖のようだけど、全体的に丈が短くて自分の知識で当てはめるならミニ浴衣に近い。

 成功だ。人が、そこに居る。


「……お兄さん、誰?」


 閉じていた目が開かれる。そこには赤い瞳があった。

 まだ感情を取り戻しきっていない瞳には警戒が残っている。


「初めまして。ナガレ・エイキチと言います」


 つとめて穏やかに。敵意がないことを示すために、挨拶をする。


「えーと、アタシに起きてって言ったのはアナタだよね。ううん……そもそも、アタシは寝てたの?」

『それについては、女神から説明させてもらおうと思うわ』

「うわ、なんか空から声が聞こえて来た!?」


 あ、なんかその反応は新鮮だなあ。無理もないか。


◆◆◆


 事情を聴いた彼女の反応は、意外にもシンプルなモノだった。


「ふーん、世界が滅びちゃったんだ」


 世界が滅びた。その上で自分も死んだことも、アッサリと受け入れたものだった。


「だってまあ、なんとなく分かるよ。死んでたことも、呼び起こされたことも」

「今更だけど、無理やり蘇らせて迷惑じゃなかった?」

「ううん。ちゃんと体を取り戻せてるし、大丈夫だよ」


 そうアッサリと死を受け入れられる人は多くない。正直、こちらが拍子抜けてしてしまうくらいだ。


「改めて自己紹介をするね」


 少女はピン、と背筋を伸ばすと、胸に手を当てる。 


「アタシはマリ! ここからずっと東にある海の町のアイドル!」

「偶像なんて概念があるんですね」

『一応、日本で言うところの大正期の技術と文化の水準はあったのだわ。まあ、歌舞伎スターとかそんなところかしらね』


 相変わらず女神様は微妙にズレている。けどまあ、たぶん人気の歌姫とかそんなところだろう。


「改めてよろしく」


 マリの方から握手を求めてくれた。


「こちらこそ」


 戸惑うことは無い。遠慮なくその手を握り返した。

 蘇った体ではあるけれど、その肉体には確かに熱があった。


「ところで、実は困っていることがある」

「へえ、よし! まずは聞いてあげるよ。解決できるかは責任をもたないけどねっ!」


 いい加減なのに自信満々に言ってくれる。

 なんか、肩の力が抜けて焦っていた自分が馬鹿らしくなる。


「この建物の出方は分かる?」


 さて、ともかくこのままで居るわけにはいかない。一応、疲れ果てる前には外に出たい。


「うん、何度か来たことがあるから、これくらいの明るさでもなんとか分かるよ」


 胸を張って応える彼女が頼もしい。安心して任せてよさそうだ。


「案内するけど、アタシからもお願いしていいかな」

「もちろん」


 断る理由は無い。


「行きたい場所があるんだ」」


 そう言うと、僕が返事をする前に彼女は歩きだした。

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