3章 鉄の路、文明の残滓

3-1 歩く、歩く

 夜、灯りを落とした部屋で暗闇に意識を溶かして眠りにつく。

 夢を見て、朝日に撫でられて現実に帰ってくる。

 当たり前だけど、光の変化と言うのは生活のリズムを作るうえで非常に有難い。太陽にはいくら感謝してもし足りない。


「ふぁぁ……」


 ああ、また欠伸が出てしまった。女神様が抑えきれなかった笑い声を漏らしてる。


『眠そうなのだわね』

「ええ、どうしても睡眠が不規則になってしまって」


 休憩を取っていないわけではない。だいたい、16時間起きていたら8時間眠るようにしているし、休憩だって適時とっている。

 それでも、空に変化がないとどうしても身体のリズムが定まらない。


 昼でも夜でもない黄昏の空。紫色の帯はいつまで経っても変化しない。

 夜と言うには明るすぎるし、朝と言うには暗すぎる。

 なんと言うか、眠りから覚めても未だに真夜中に居るような気分なのだ。


「何でもいいから話をしましょう。話している内に眠気も飛びますから」

『そうなのだわ。じゃあ、3番目に管理した世界のお話でもしようかしら』

「あれ、昨日も3番目の世界のお話じゃないでしたか」

『まだ語り足りないのだわ』


 スイッチが入ったように女神様の語りがはじまる。

 内容は、彼女は過去に管理を担当した世界のお話。と言っても、先輩女神の手伝いをしていたということだ。

 世界の中に生まれた均衡を崩す存在。魔王とか悪魔だとか言われる奴が出現した時に、勇者として選んだ人間に力を与えて討伐をさせた話とか、未開の大地を開拓するように神託を下した話とか、色々だ。

 失敗して叱られたとか、良い成果を出せて褒められたとか。

 女神と言っても未熟な頃は先輩と一緒に行動する。その中で心構えや技術を学ぶのだ。


 彼女はつい最近――と言っても人間にとっては途方もない時間だけど――ついに独り立ちして単独で世界の管理を任されたらしい。


『どうしたのだわ』

「いえ、改めてスケールの大きな存在と話してるんだな、と思って」


 女神――なんて彼女たちは名乗っているけれど、要するに『世界』の中にしかいない僕たちにとっては、理の外側に居る存在だ。

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