2-4 後始末

 人は疲れたら寝る。当たり前だ。

 眠らないと疲れる。

 だけど面倒なことに、寝すぎても疲れる。


「寝すぎた」


 十二時間程眠っていた。

 空はやっぱり、黄昏のままだった。


『酷い顔なのだわ』

「放っておいてください」


 女神様の言葉に悪態で返す。朝はあんまり強くないんです。

 ともかく、起きて顔を洗いって食事を済ませる。

 それが終わると、念のため街を歩いた。

 町には何の気配もない。本当に、建物と乾いた草や木、人が作ったものの残滓以外何もなかった。

 もうここに、死に損なった命はないだろう。


 一旦酒場に戻ると、旅立ちの用意をする。

 必要な道具を回収する。そして、自分が汚した場所を綺麗にする。調理に使用した道具なんかは、洗って元の場所に戻している。

 これで、元通りだ。ただ、一つだけ除いて。


「このレシピ本、持って行っていいですよね」


 古いレシピ帳を、確認するように持ち上げる。

 返事はもう、聞こえない。


「ありがとうございます」


 だけど、いいよって言われた気がした。


 ――楽しみだな、もう一度あの店に行くの――

 ――あの時はイライラして不味いって言っちゃったけど、本当は美味しかった――

 ――誰かがちゃんと美味しいって言ってくれたろうけど、今度は自分の口で言おう――


 扉を閉めた時、誰かの最期の記憶を思い出した。

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