2-2 辺境の町
荒野には本当に何もなかった。時折女神様が冗談を言ってくれるくらいしか外からの刺激は存在しなかった。
『――で、その時先輩女神が言ったのだわ。世界を治めるには――』
ツッコミを入れながら歩いていると、かつて町であったであろう廃墟が見えてきた。時計を確認すると1時間は経過していた。
廃墟と言っても暴力によって壊された破壊されたような痕跡はない。経年による劣化は存在するが、それも数百年といった単位での影響は見られない。女神様が言うところの、『ちょっとだけ』目を離した時間だろう。
存在は残っている。無機質にそびえたつ文明の跡から、生命の気配がそのまま消えたような状態だった。
「ここ、町だったところですよね」
『ええ、そうなのだわ』
道は綺麗に舗装されているし、建物の建材は自然そのものではなくて加工された石のようなもの――それこそコンクリートに近い材料が使われている。おそらく、文明レベルは産業革命よりも上だろう。
「女神様、この世界の文明レベルって地球で言えばどれくらいになりますか?」
『貴女たちの世代に合わせるなら、日本の大正時代くらいだわ』
なるほど。だいたい推測と同じだ。
そうなると、情報の記録についても大分期待は出来る。さすがに人は残っていないだろうが、書物はあるだろう。本当に大正レベルの文明があるのなら、新聞だってある筈だ。
それに、気配を感じる。
僅かではあるけれど、死にきれない魂の声が聞こえる。
おそらく、ここにも再生を阻害する意思が残っているだろう。探索は慎重に行う必要がある。
かつて目向き通りであったろう、幅の広い道路を歩く。商店は店を開けたまま客を待ち続けている。
青果店には、既に腐敗を通り越してミイラのようになった果実が地面に転がっていた。
金物屋に雑貨屋。世界が死ぬ前は賑わっていたであろう町並みは、主を遺して存在し続けている。
「えっと、あ」
大通りの突き当りまで来たところ、一際強い気配があった。
ちょうど目の前にある店から気配を感じる。埃だらけの看板には『酒場』である旨が書かれている。
『あらー、情報収集の基本は酒場なのかしらね』
「まあ、どの時代でも人の集まる場所は酒の場ですからね。娯楽の少ない時代なら尚更」
両開きのドアに手をかける。鍵はかかっていない。少し力を入れると土埃をまき上げて扉が開いた。
薄暗い店内には明かりはなかった。
リュックから懐中電灯を取り出して点けると、モダンな内装の店内が照らし出された。
今でこそ埃に埋もれているけれど、かつてはカウンターやテーブルには人で溢れていたであろう。
「気配が、ある」
ハッキリと分かる。肌にヒリヒリと刺激が張り付いている。
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