おまけ(リシャベルの伝説)
昔々、ある国にロイという若者がいました。
ある日、ロイは一人の娘と出会いました。
娘は酷く衰弱し、話も出来ない程でした。
ロイは娘を救け、家に連れていき、手厚く看病をしました。
次第に娘は回復し家事を手伝うようになりました。
リシャベルと名乗った娘はいつしかロイと婚約し、男の子と女の子、二人の子供をもうけました。
幸せな生活のある日、ロイは国の命で戦争に赴きました。
戦争に向かう前の晩
「おまじないです。死の危機に必ずあなたをお守りします」
そう言ってリシャベルは棘に囲まれたグリフォンの刺繍を施した布をロイの左腕に巻きました。
不思議なことに、ロイが率いる軍隊はいかなる危機も、死者を出すことなく乗り越えました。
無事に戻ったロイはリシャベルに感謝をしました。
「あなたの祈りのおかげで皆生きて帰れた」
それはそれは穏やかな笑みでした。
すると、リシャベルは笑いました。
「私はあなたの無事のみを願いました。皆の無事はあなたの祈りのおかげです」
左腕のグリフォンがあなたの祈りを叶えたのだと。
全てが無事に終わるはずでした。
しかし、ロイの部隊のみが一人の死者も出さなかった事に疑問を抱いた王は、ロイを国に反する反逆者だと騒ぎ立てたのです。
王はロイの処刑を決定しました。
城から離れた死刑台に縛られたロイを多くの隊員が囲み無実を主張しました。
しかし、王には届きません。
ついに刃がロイの首に降ろされるという時、処刑場に竜の叫びが響き渡りました。
ビリビリと空を震わす威厳のある叫びの中、現れたのはリシャベルでした。
リシャベルが降り立った砂はみるみるうちに水面へと変わりました。
ロイは驚きを隠せません。
リシャベルは磔のロイと口づけを交わすと王に語りかけました。
「国民の声に耳を傾けないあなたの国はいずれ滅びゆくでしょう。」
リシャベルの澄んだ瞳は反論を許しません。
「次の王に、灰色の目を持つ者をたてなさい。その者は国を必ず、正しい道へと導くでしょう」
彼女の言葉はその場の国民に響きました。
リシャベルはそっとロイにふれ、
「騙すつもりはなかった。ただ、あなたを愛してしまっただけなのだ」
と、一筋の涙をこぼしました。
涙が水面に落ちる度に真っ白な蓮が咲き乱れました。
「あなたをいつまでもお守りします」
数歩下がったリシャベルの姿は真っ白の竜と化し、一筋の光となって天へと登っていきました。
国民はロイを死刑台からおろし再び軍へと戻しました。
後にリシャベルの予言通りその国の王は病で亡くなりました。
人々はリシャベルのいう灰色の目を持つ者を探しました。
しかし、黒と青の目の人しか見つかりません。
人々はリシャベルが暮らしたロイの家を訪ねて驚きました。
ロイとリシャベルの間に産まれた幼い子のうち、男の子の瞳が澄んだ灰色だったのです。
その子は王としては幼く、代わりにロイを王に立てました。
『レビア』と名を変えたその国は棘に囲まれたグリフォンが祈りを叶えてくれると信じて、リシャベルの残した刺繍を国旗としました。
リシャベルが飛び立った死刑台は季節が巡ると美しい白の蓮を咲かせる祭壇となりました。
後数百年、レビアが滅びる事はありませんでした。
王は常に先陣を切り戦場に立ちました。
ロイがそうしたように、彼とリシャベルの意志は受け継がれたのです。
銃走劇 文目鳥掛巣 @kakesuA
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