第45話 1日炊事係

 真下に広がる大きな湖。若草茂る木々と透き通る青空、それらを照らす夕日によって輝きが増す。パーカーのフードを目深に被り、でかいパーカーと短パンのせいで下半身の布が見えない姿の少女・Δは風になびかれていた。

「さて、今回はどうなるかな?」

 フードの下から覗く何が映っているのかわからないほど真っ黒な瞳で巨大な湖を見下ろしそう呟いた。

『貴様は外が好きなのか?』

 響くような低い声でそう言ったのは、Δの小さな頭の上に器用に座っている一体の狐だ。黄金色の整った毛並み。黒の結膜に赤の角膜の左目を持ち、夕日に照らされ黄昏た姿は一種の神々しさすら感じる。

「貴様とはなんと失礼な。ボクは仮にもキミのご主人様だよ? あと外は好きだよ。無限に広がる大地を好きなように歩めるんだから」

『仮には、な』 

 狐の意味深げな返しにΔは肩を竦めた。狐はΔのことなど気にも留めず遠く――ずっと遠くの誰かを睨みつけるように、鋭い牙をむき出しにした。

『貴様はどうするつもりだ』

「今回も監視に徹するかな……あんなのが居ちゃボクも表立った動きはできないからね」

 Δは真っ赤に発熱した大きな鎚でそこそこの木を根っこごとなぎ倒した一人の巨体のことを思い出しながら不満げな声音でこれからの方針を口にした。あの男のことは知っていたが予想外だ。筋肉を愛し筋肉に愛された男という認識自体はあっていたのだがその力が規格外すぎる。

「は~ぁ。情報も好きだけどもっと直接的な方法で何かが欲しいな」

 Δは自身が名乗る《強欲》を言葉に乗せて表す。

『まだその時ではない。貴様にはもっとたくさんのことを知り、手中に収めてもらわねばならん』

「はいはい分かってるよ。ただちょっとした欲を口にしてみただけだし」

 Δは頭上にいる狐の言葉に口を尖らせ言い訳をし、踵を返し深い深い森に姿を消した。

「――今回は誰が再来するかな?」



   #

 穏やかな小川の近くに設置された簡易テント。温かい日差しがテントの中を照らす。ほのぼのした空気が漂う中、赤髪黒メッシュの少年・レイが目を覚ました。

「あ~ぁぁ」

 レイは上半身を起こして小さく伸びをしたのち、隣にいる二人に視線を向けた。一人は女と間違えてもおかしくないほどの高身長美男子・シャヴィ。レイに背を向け真っすぐと――まさに棒のような恰好で一切物音を立てず横になっている。そしてもう一人は、冷え性なのか根袋に深々と身を沈めている美少女・ブラフマー。すーすーと小さく寝息を立てている彼女は、偽りとはいえ本当に小さな妹のように思えるほど可愛らしい。

 そんな二人を眺めてレイは小さく微笑み、外の空気を吸うべくテントから出た。

「カァー」

「?」

 レイは目をこすった。まだ寝ぼけているのかもしれない。

「カァー」

「⁇」

 レイはもう一度目をこすった。はは……まさかそんなこと。

「カァー」

「鳥ィィィィィィィィッ‼」

「――カァッ!?」

 テントから一歩踏み出したところにいた真っ黒な体毛に覆われ鋭いくちばしをもったそれ。レイはその姿を認識するなり、渾身の力を込めて目の前に居座る一羽のカラスを蹴り飛ばした。いきなりすぎる暴力にカラスはカァカァと泣きながら羽をばたつかせ早急に姿を消した。幼い時に受けたトラウマはいまだ健在で、レイの鳥嫌いは一向に治る気配がない。

「なんだ朝からうるさいぞ声帯潰してやろうか人間……」

 サラサラな金色の長髪に宝石のように輝く赤い瞳の少女が眠たげに目をこすりながらテントから顔を出した。彼女も彼女で見た目は非の打ちどころのない完璧美少女なのだが、その口調はいつも暴言ばかり。そしてそれを自らのチャームポイントだとかなんとかで一切直そうとしない。二人が着ている赤地に金刺繍の軍服には自己を改めないようにする効果でも付与されているのだろうか?

「おはようございますお二方。今日も天気がいいですね」

 テントに残っていた最後の一人――シャヴィも目が覚めたようでテントから出て穏やかな笑顔で朝の挨拶をする。その表情と言い佇まいと言い言動と言い、十年以上前の記憶を引きずっているチキンと幼いくせにマイナスな言葉だけは達者なガキには是非とも見習ってほしいものである。

「おはようシャヴィ。今日もずっと歩くだけか?」

「それは隊長に聞いてください。と言っても多分その通りだと思いますが」

「……」

 シャヴィの言葉にブラフマーが心底嫌そうな視線を送った。それもそのはず。今行動を共にしている二十二人の中でブラフマーだけが女性。そして残る二十一人の中の実に十九人が彼女が嫌う筋肉を兼愛し、己の肉体を鍛え上げた本物のマッスルボディの持ち主なのである。

 そしてまあ何ともタイミングのよろしいことで筋肉を束ねる筋肉隊長――ヴォルヴァが何かを探すように頭を掻きながらこちらに近づいてきた。

「よぉ。お前さんたち、あれを見なかったか?」

「あれって?」

 あまり容量の得ない言葉にレイが口をかしげると、ヴォルヴァはああ、と首肯して探し物の名前を口にした。

「この辺で――一羽のワタリガラスを見なかったか?」

「見てませんね」

「同じくだ……と言うかそれ以上こっちによるな筋肉め」

 ヴォルヴァの問いにシャヴィとブラフマーはすぐさま首を横に振ったが、レイの動きはぴたりと止まっていた。

「どうした? こんな朝から汗を掻いて……もしかしてお前さん、風邪か⁉」

 レイを怪訝な顔で様子を伺うヴォルヴァ。残念ながら彼の回答は間違っている。レイが全身に汗を掻いているのは、数分前――一羽のカラスを蹴り飛ばしたからだ。だらだらと全身に嫌な汗が流れるも、ヴォルヴァだけでなくその他二人の視線も疑わしくなってきたのでレイはできるだけ自分がやったということを避けて言葉を紡ぐ。

「えーっとー。あのですね? もし、もしもだぞ? そのカラスを誰かが空の彼方に蹴り飛ばしていたら何かまずいことでも?」

「バカじゃねぇのかお前さんはっ⁉」

 レイの言葉の意味をを正しく理解したヴォルヴァは迫るような勢いで叫んだ。その顔には明らかな焦りと動揺がうかがえる。絶望に満ちたヴォルヴァは頭を抱えそのカラスがいかに重要かをレイに懇切丁寧にご教授してさし上げた。

「いいか? お前さんが蹴り飛ばしたカラス――あれは定期連絡用のワタリガラスだ。ナイトメアにいるスパイからいろいろと情報が流れてくんだ。そして今日はこの森にいるかもしれない敵勢力の情報を貰う予定だったんだがなぁ?」

「あ、はい……なんかもうほんとすみません……」

 あほほど重要な情報を持った鳥ちゃんを蹴飛ばしたという真実を突きつけられたレイは項垂れて謝罪を口にした。レイ自身としても敵勢力の詳細は是非とも知りたかったのでなおさらだ。

「流石、とでも言っておこうか人間」

 ブラフマーの口は相変わらずだ。ちょっとしたことでも(今回はちょっとどころじゃない)すぐバカにしてくる。こっちは慣れっこだからまだいいとしてシャヴィの視線が痛い。いつも穏やかで友好的な存在であるのに今じゃドン引きである。

 そしてレイは吹っ切れた。もう過ぎたことだ、どうにでもなれ――ということで笑みを浮かべた。

「もういいじゃん。別に殺したわけじゃないし、過去を振り返るな! 人間は今を生きる生物だ‼」

「人間が過去を見ないのであれば十数年前のトラウマを大事に抱えている貴様は何なんだろうな」

「……うるせぇ」

 ブラフマーの言葉がレイの精神に傷をつける。しかしブラフマーに鳥嫌いの原因を話した覚えがない。彼女の核がレイの体内にあるからそこから記憶をのぞき見でもしたのだろうか?そりゃまあ不愉快な話だ。でも、ここでブラフマーと口論を始めてもただでさえひんやりした空気がさらに冷え最終的に凍り付くだけなので自重。その件については今後ゆっくりと二人きりの時にしようとレイは決めた。 

 ヴォルヴァは腕組をして何やら考え事をしている様子。元凶であるレイは、少しでも責任を取らなければならない。

「あのヴォルヴァ……何かお手伝いすることはありませんかね……」

「じゃああれな。今日一日お前さんが飯当番な」

「ふぇ⁉」

「なに驚いてんだ。朝食はいいし食料確保もこっちでやる。どぉだ、簡単だろ?」

「あ、うん頑張ります……」

 ヴォルヴァは最大級の譲歩だったのだが、レイにとってそれは地獄に等しかった。そもそも二十人越えの料理など作ったことが無いし、ましてや面子が面子である。マッチョが十九人もいれば量はさらに増えるし、どうせ筋肉増強料理じゃないと文句が殺到するに決まってる――だが今のレイに拒否権はない。罪を償うために筋肉たちの食事係を今日一日全うするのだ。

 レイは改めて周りを見渡した。視界一面の森。実力は確かなはずだがどこか天然じみたシャヴィと宇宙の《創造者》たるブラフマー。アースガルド最強の戦士たる《雷帝》ヴォルヴァ。そして――戦闘訓練と称して朝一から苛烈な筋トレを繰り広げている十八人のマッチョたち。

(うん。今日も荒れるな)

 ――行き過ぎた筋肉を持つ人間といると、到底穏やかな一日を過ごせると思えない。

 これはレイとブラフマーの経験談である。



 朝食は携帯食料で済ませ(なぜか当然のごとくプロテイン入り)ヴォルヴァの指揮で行軍が始まった。

「昨日までは川沿いに進んでいたが今日からそうはいかねぇ。数日水浴び出来ねぇかもな」

 曰く――昨日までとなりを流れていた小川は北の方に続いているとのこと。他部隊と合流するわけでも無いので川は無視して直線で進むらしい。レイとしてはとても複雑だ。水浴びできないのは少し悲しいがありのままの筋肉を見せつけられることも無くなるのだから。でも後者の方が重要なためレイは一切の不満を飲み込んだ。守るべきは外より内なのだから。

 ヴォルヴァ率いる《筋肉は素晴らしい》の進軍スピードはとにかく速い――物理的に速いのではなく、一切止まることなくスムーズに、という意味で。そこで驚くべきなのは、彼らマッチョたちは皆大荷物をしょっていることだ。テント、食料、水、燃料、などなど、普通は諦めて置いていくものまでマッチョにかかれば何のその。

 それにサバイバル技術も凄まじい。生態系を崩さないように資材集めは最低限にしているのにそれなりのことをしてしまう。筋肉というのがちょっと癪だが素直に褒め称えるべきことなのである。仲間思いで自然に優しい――もう少し肉体の主張が抑えられれば女性からの人気は大量に得られるだろうに。何とももったいない。

 と、そこで初めて《筋肉は素晴らしい》の足が止まった。

「うおぉ……っ!」 

 目の前にあるのは思わず声が出るほどの断崖絶壁。角度は九十度を超え、下に覆いかぶさるように広がる大地。

 これは迂回かな? レイが崖を見上げ心の中でそう呟くと、前方から否定の声がいくつも聞こえてきた。

「さて諸君らに問う! 目の前には高さを誇る絶壁! 木登りしたところで届かねぇ! ならば、お前さんたちは何を選ぶ!」

 ヴォルヴァが部下たちに向き直って腕を組み声を張る。それに答えるようにマッチョたちはにやりと口角を上げて白い歯をキラリと見せつける。この時点でシャヴィは苦笑。それを見たレイとブラフマーはとてつもない不安に駆られた。

 そしてその不安は当然と言わんばかりに現実へと変わる。

「そんなの」

「決まってますぜ」

「隊長!」

「目の前にあるのは」

「断崖絶壁!」

「そして」

「我らが」

「持つのは」

「筋肉!」

「ならば」

「答えは」

「ただ一つ!」

「登って見せよう」

「この崖を!」

「急がば回れを」

「覆す!」

「壁とは常に超えるもの!」

「やってやろうとも、我らの――」

『この筋肉でっ‼』

「よろしいィィィィィィィィィィィッッ‼」

 十八人のマッチョによる完璧なポージングと決め台詞に、それらを束ねるヴォルヴァは大きく首肯した。

「……すぅ」

「……………」

「あれが皆さんの日常ですよ……」

 特等席で見せつけられた訳の分からない掛け声に、レイは心を落ち着かせるために深呼吸。ブラフマーは白目をむいて放心状態へと移行。シャヴィは何度も見てなれたのか苦笑交じりであははと笑う。

 常識人をほったらかして事は進む。特に荷物を持っていない三人のマッチョがレイ達の方に歩み寄る。

「さて、お前たちは俺が運ぼう」

「なに、もちろん丁重に扱うさ」

「さあ、我が腕に抱かれるがいい!」

 モヒカンマッチョ、ロン毛マッチョ、眼帯マッチョがまたもや美しいポーズを決めた。

「……………」

 とっくに魂をどこかに飛ばしている少女は本能の命令により死んだふりを決行――だが、それは相方であるレイによって阻まれた。

「諦めろブラフマー。こればかりは仕方がない」

 倒れこもうとする小さな体を受け止め、そのままずるずると運び屋さんにお荷物持っていく。

「や、やめろっ! 私は迂回する! 一人でも迂回する! だから放せ人間!」

 生命の危機を感じたブラフマーは意識を体に戻し必死に抵抗し始めた。とはいえ綺麗に襟首をつかまれていい感じに暴れられない。それにレイは悪い笑みを浮かべて楽しそうにしている。

「シャヴィ、確かあれあったよな?」

「あったと思いますよ。ちょっと取ってきますね」

 シャヴィはレイの求める物を察したようで何の疑問もなくある物を取りに行った。その間はレイの今まで受けた鬱憤を晴らす時間だ。

「散々俺のことを馬鹿にしたんだからちょーっと痛い目見てこようか?」

「ハッ! そんなことを言われるような行動をしている貴様が悪い! ――というわけでさっさとその手を放せェ!」

 ブラフマーは、いつもと変わらず堂々と(内心ビビりちらかしながら)必死に訴える。でも、その程度で心を変えるレイではない。悪い子には罰が必要なのである。

「知らねーよ。そんなことをしてようとしてなかろうとお前に与える罰は変わらない」

「ハ? ふざけるなよ人間。貴様それが私に対する態度か?」

「あ、そういうこと言うんだ。ふーん」

「……? さっきから何なのだ人げ――」

「持ってきましたよレイ」

 ブラフマーの視線がシャヴィの持っているもので固定された。それは一本のロープだった。ぐるぐる巻きにした頑丈なタイプの。

 ――いったいそれを何に使うのだろうか? その疑問に対する答えを出すには一秒とかからなかった。

 そりゃぁもちろん――ブラフマーを縛り付けるためだ。

「ぎゃああぁぁぁぁぁぁっ! 私はまだ死にたくなぁぁい!」

 死刑宣告を受けた並みの絶望が襲ってきたことにブラフマーはプライドなんか全部捨てて命乞いを始めた。

「止めろ! 今すぐその縄を捨てろ!」

「いやこれ色々と使い道あるので捨てませんよ?」

「なら仕舞え! それを手に持つな!」

「あっはは~立派な筋肉をお持ちの軍人さん、この子ちょっと荒っぽいけどよろしくお願いしますね?」

「おう! お嬢さんは土一つ付けないで上まで運ぶぜ?」

「少しも安心できん! 土じゃない何かが確実に付着する!」

 ブラフマーは襟首を掴んでいる赤髪の少年を見上げ敵意むき出で叫んだ。でもそんなことをいちいち気にするレイではない。今はとても楽しそうに気色悪い満面の笑みを浮かべているだけだ。

 レイがいよいよ行動に出た。襟首を掴んで移動できないようにした金髪少女を前方に立っていらっしゃるロン毛の筋肉さんに差し出す。

「貴様人間の分際でそのようなことをしていいと思っているのか⁉ なあ、なあ⁉」

「んだようるっせーな。それじゃあこうしてやる」

 レイはロン毛に後ろを向いてもらうよう促し、ブラフマーを背中に縛り付けることにした。その引き締まった背中にブラフマーの背中が合わさり――

「ギ―――――ッ!」

 声になっていない悲鳴のようなものが彼女の口から発せられた。それと同時にいくらか抵抗力が無くなった気がする。それほどまでに筋肉は彼女を殺すらしい。

 完全に他人事であるレイは抵抗しないうちにさっさと縛り付けることに。シャヴィに協力してもらい途中で落っこちないようきつーく縄を巻いていると、死にかけたような声でブラフマーが最後の命乞いをしてきた。

「いいのか……? 貴様がここで、反対すれば……私と、一緒に安全なルートで……行けるかもしれんぞ……」

「速いに越したことは無いんで」

「クッ……最後に問おう。貴様もこのおぞましい筋線維に抱かれることになるんだぞ⁉ それでもいいのか⁉ いいわけないだろう! さっさとこの縄を解けっ!」

「あ、繋ぎ終わりましたんでどうぞ行ってください」

「了解した! 〈ボディチャージ〉――【ハンド】!」

「貴様アァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ‼」

 ロン毛が握力を強化して命綱なしのロッククライミングを開始した。その背中に縛り付けられた少女は――手足もがっちり縛られたため――エビのように体を跳ねさせてレイに怒りの言葉を叫んでいる。怒りに支配されているために筋肉に対する恐怖が薄れているのが目に見えてわかる。これはレイのせめてもの温情だ。有り難く受け取ってもらいたいものである。

 レイ自身としてもあの筋肉ボディに密着されるのはちょっと気が引けなくもないのだが、ブラフマーへのちょっとした復讐という項目で妥協した。そんなわけで次はレイ達が運ばれる番だ。モヒカンがシャヴィ、眼帯がレイを運ぶ――なぜかお姫様抱っこで。レイが理由を聞いても教えてくれなかった。シャヴィは問うつもりもないのか極太の腕にすっぽり収まっていた。

 ロン毛の時とは違い二人は脚力を強化。最初のジャンプで木のてっぺんまで跳び、もう一回のジャンプで崖を登り切ってしまった。仕上がった筋肉の持ち主しかいない《筋肉は素晴らしい》にとって使用者の身体能力に比例して力を増す〈ボディチャージ〉は最早一番の相棒。この遠征で聞いた話では〈ボディチャージ〉以外の全魔法を禁止しているらしい。何とも知りたくなかった情報である。

 ちなみに天性力を得て魔法が使えないヴォルヴァは誰の手も借りずそも持ち合わせた筋肉だけで崖を登っていた。一番最初に登り切り、滴る汗を拭うその姿はとても様になっている。

 ――余談だが、レイは崖の上にたどり着くなり一人の少女にボコボコにされていた。嫌がっていることを強制的にやったことに対してレイは大人の対応で一切の抵抗をせずに殴打されていたのだが、それでも少女の怒りは収まらなかったようである。今日一日、レイはブラフマーで遊ぶのは止めよう心に誓った。

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