第35話 戦う理由

 レイはさっきリタに連れてこられた崖に来ていた。道中に摘んだ、見た感じ綺麗だった花を墓に添え、アースガルドの都心を一望していた。

 ここに来た理由はリタとの約束だったり一人で考え事をしたかったりだと色々出てくるが、主な理由としてはある疑問を持ったからだ。

 ある疑問――それはこの国、いや、この巨大国家が信仰している天と言う概念自体に、だ。

 日ごろから天とは何だと思うことはあったのだが、一昨日の出来事で明らかにおかしいと思った。

 あの時現れた天使。自分たちが信仰しているにも関わらず、殺そうと攻撃をしてきた。もうその時点でだいぶおかしいが、あの時謎の声が言っていたではないか。所有者の体を乗っ取り本来の姿を取り戻す、と。

 何かがおかしい。レイがそう思考を巡らせていると、その問いに答えるようにレイの頭に直接声が聞こえてきた。

〈ようやく気付いたか。いや、それがこの世界の人間であればむしろ褒めるべきか〉

(お前はあの時の……!)

 脳に直接聞こえてくるその声は、一昨日にも聞いた声だ。

〈お前じゃない。私はブラフマーだ〉

(ブラフマー? あ、もしかして俺の天性力か?)

 授与式で消えた天性力はもしかしてこの声なのだろうか?レイはちょっと興奮気味に問う。

 だか、返ってきた声は、期待の真反対ともいえない何ともコメントしずらい答えだった。

〈私は神や天使ではない。《創造者》ブラフマーだ〉

(《創造者》ってなんだ? 具多的に何を創ったんだ?)

〈この世界、この宇宙そのものだ〉

 レイは目を見開いた。脳や無などを作り出せる力を持っているのだから《創造者》という単語には納得できたが、いきなり宇宙を造ったなんて言われても困る。

 こうして余裕のある時に聞いているから気づいたが、この声は女性のようだ。しかも、結構幼く感じる。

(宇宙の《創造者》サマが何で天性力の中に紛れてたんだ? それを俺が獲得したみたいだけど、なんかまずいことになったりしない?)

〈人間ごときに私が《創造者》であることなんか分かるわけがないだろう? どうして天性力の中に紛れていたか、――これに関しては貴様の疑問と関係がある〉

 疑問? 《創造者》が紛れていることに関してはたったさっき答えてくれたから天に対しての方だろうか?

 自身をブラフマーと名乗る声は、レイの思考を読み取るように話す。

〈この星は、一度滅亡している〉

「は? 滅亡?」

 さっきから結構急展開だが、この言葉には思わず声に出してしまった。周りに人がいないことに喜ぶ限りである。

 レイの思考を騙させるようにコマ送りでレイの頭に見知らぬ光景がなだれ込んできた。

〈もともとこの世は、天界、魔界、地上の三つに分かれていた〉

 ここは何だろうか。立ち並ぶ高層ビルに綺麗に整備された道路、お洒落な服を着た人々があちこちを行きかっている。そこに、この国みたいな信仰を示すと言った行動は見受けられない。

 それに、信仰関係無しに人間が使える共通の力である魔法すら使っていない。いや、そもそも使えないのか。

 みんながみんな、家族や友人、恋人と面白おかしくおしゃべりをしている。

〈私たちのような特別な力を使う存在は「神話」や「宗教」とされ、架空のモノとしか伝わっていなかった〉

 教会で十字架を手に頭を垂れている人々がいた。何かに縋るようにしているその様は、この国に少し似ていた。

 それでもそのために何か不思議な力を使って戦うわけでは無かった。それは本当位にただ「祈り」をささげていた。

〈だがある日、発端すら不明な戦争が起き、天界と魔界のちょうど間にあった地上が戦場となった〉

 泣き叫び、痛みに苦しむ人々がいた。蝙蝠のような翼を生やした怪物が暴れ回り、それに対抗する純白の翼を生やした化け物が街を破壊する。それらを指揮、または一緒になって破壊を繰り広げる、神々しい、または禍々しいオーラを放っている狂人たち。

 それは神、天使、悪魔、魔王と言ったこの星に住む者が信仰している存在だろう。だが、無差別に破壊を繰り返す人外の存在に、全ての人間が等しく恐怖していた。どっちが正義でどっちが悪などと判断もせず、いきなり現れたそいつらを皆こう言っていた。「悪夢が、天災が訪れた」と。

〈その戦争は、世界の終わりと共に終焉を告げた〉

 それはもう人が住める場所ではなかった。水が一滴残らず蒸発し、大地がえぐれ真っ赤な空が広がっている。そこには人類はおろか、一つとして生命は存在しなかった。それでも戦いを止めない強者たちは、ついにその星すら破壊した。

〈そこで私はある協力者と共に世界を修復しようとした。天と魔を封印してそれぞれのあるべき場所に追放し、新たに星を造った〉

 ブラフマーは悔しそうに低い声で続きを言う。

〈――だが、ある一人の天格が地上に根を生やした〉

(一人の天格?)

 なだれ込んでくる映像が止まったのでレイは沈黙を破り会話に入る。

〈始祖ユミル。世界樹として地上に現れ、巨大国家と呼ばれている九つの国を創り上げた天格だ〉

(始祖ユミル……始祖⁉)

 ユミルと言う名前に聞き覚えはないが、始祖と言われれば心当たりは一つしかない。

 レイは前方に生えた直径五キロはある巨大な木を睨んだ。この信仰という概念はお前が生み出したものなのか、と。

 その後に続くブラフマーの言葉はレイに更なる衝撃を与えた。

〈始祖ユミルが地上に根を生やした途端、魔力と言う不純物が星を満たした。それの対処に浮足立っている隙に次々と天格と魔格が地上に天性力、魔性力として落ちてきたのだ。石に封印されていた状態だったが、魔力を利用し、その力の一部を使えるようにしてな。――つまり、この星は私の失敗作となったわけだ〉

(随分と自分勝手なんだな。天と魔、そしてお前も)

 どこまでも自己中心的な奴らだとレイは思った。

 勝手に始めた戦争に人間を巻き込み根絶やしにして。挙句新しい人間の星にまで手を出して。そしてそれを創ったやつは失敗作だと言い放った。

 ここまで来るともうあらかた予想はできる。天と魔の目的、そして何故創造者ブラフマーまでもが地上に干渉してきたか、だ。

〈そう思うのは当然だろう。文句を言うつもりもない。私は責任を取るために地上に来たのだからな。そして言っておくが、天の目的は「天以外の生命を根絶させ地上を新たな天界にする」こと。魔の目的は「人間を利用してこの星を支配する」ことだ〉

 あまりにも予想通りの答えでレイは力なく笑った。二つの組織の目的は微妙に違うが、人間にとっては些細な違いだ。どちらの目的が達成しても、人類に助かる道はないのだから。

 そしてここまで言われればレイも決心がつく。人間を一つの命だと考えない輩にこの星はくれてやらない。

〈そしてその目的を達成するために天と魔は『再来』を果たそうとしている。『再来』の条件は私が知っている限り三つ。権能の酷使。所有者がいる状態での封印の破壊。正規のルートを通った封印の解除だ。最初の二つは完全な状態での『再来』は起きない。だが三つ目、正規のルートを通れば完全な、本物の『再来』が起きる〉

(完全な『再来』? 封印の破壊と解除?後権能の酷使ってなんだ?)

 いきなり専門用語が連発されちょっと何言っているか分からなくなってしまった。困惑するレイの様子を感じ取り、ブラフマーはああそう言えば、みたいな感じに補足説明をする。

〈今回の『再来』、ガブリエルで説明しよう。大鎌を持った娘がガブリエルの印を破壊したな。ガブリエルの印、つまり貴様ら人間が天性力と言い手に取った石。あれが封印だ〉

(封印……。カロンの剣とかノエルの大鎌とかも封印なのか?)

〈ああ、人間が触れると形を変え権能が使えるようになるらしいな。……話を戻すが一昨日の夜現れた天使。あれは封印の破壊によって起こった『再来』だ〉

(でもそれは不完全な『再来』なんだろ?)

〈不完全だから外に核が露出していただろう。普通じゃ天使はあんな簡単に死なん〉

 なるほど。不完全じゃないからこそレイは容易く核を破壊することが出来たのか。

〈権能の酷使はそのままの意味だな。天と魔は人の身に余る力を持っている。権能を酷使すれば制御できなくなり、そのまま体が乗っ取られる。一昨日貴様が急に意識を失ったのもその結果だ〉

(おいおいちょっと待て。つまりこういうことか?もしお前も『再来』を目指していたら、あのまま俺はお前に乗っ取られていたのか?)

〈そうだな。貴様は私の気まぐれ一つで存在を乗っ取られていたかもな。ついでだが天性力と魔性力、これらを手にした者が魔法を使えなくなるのもそいつらが『再来』を促すためだ。人の身に宿ったら自身の力意外使えないようにしているらしい。これは私も例外ではないがな〉

 レイはぞっとした。そして心底安堵した。自身に宿ったのがブラフマーでホント良かったと思う次第である。

 しかしまあ、少しでも多く権能を使わせるために魔法すら制限するとは、何ともこの地に執着があるようだ。それとも人間がそこまで下に見られているのか。

 ここまで情報提供してくるのであればブラフマーの目的は一つしかない。レイに天と魔を殺せと言っているのだ。そしてレイも乗り気だ。この星を自分の者にしようとする外来種を根絶やしにする。彼は今そう決めた。

(で、他に何か方法はあるのか?)

〈ほう。随分とやる気だな〉

(当り前だ。この世界は信仰に満ち溢れているんだ。俺がやらなきゃ誰がやる)

〈いいだろう。『再来』を起こして核を壊す以外に方法は一つ。封印より先に所有者を殺すことだ〉

(天性力使用者を殺せと?)

〈天性力に限らん。魔性力も同様だ。所有者が死んでから数分は封印も脆い。その隙に壊せ〉

(それじゃあ『再来』が起きないか?)

〈『再来』はあくまでも所有者の体を媒体とするんだ。封印の解除でもない限りは死体を使って『再来』はできない〉

 レイは天と魔を殺すと決めたが人に手をかけるのはちょっと気が引けた。天と魔は人間を利用しようとしているが、人間自体はそれらを信仰しているのだ。何も悪いことをしていないのに殺すのはどうかと思う。

 ブラフマーもそれを責めるつもりもなく、それは方法の一つだと言った。

〈貴様がどの方法を取ろうと構わん。で、人間。貴様はやるのか?人間では到底かなわない絶対的な力を持った天と魔。これらと戦う覚悟はできているのか?〉

 レイは即答した。人間の星は人間が支配するべきだから。そしてなりより、これまでにない戦う理由が舞い降りたのだ。天のためとか言って軍に入るよりこっちの方が断然面白そう。

 よって答えはもう決まっているのである。

(俺とお前、二人でこの世界を正そうぜ!)

 それに答える声は、レイの目の前から聞こえてきた。

 レイの体内から出てきた光が人の形へと変わっていく。レイの瞳と同じ金色の長い髪。レイと髪と同じ赤色の瞳。

 そのまさに《創造者》と言わんばかりの威厳を見せつけ、その少女はレイにこういった。

「改めて言おう。私は《創造者》ブラフマー。この不完全となった世界を元に戻すためにやってきた。よろしくな、人間――おい、どうして貴様は私に背を向けている?」

 ブラフマーは目を合わせようとしないレイを睨む。

 そしてレイとは言うと、ブラフマーに背を向け、絶対にその姿を見ないように目を閉じていた。

「いやじゃあ聞くんだけど、お前今服着てる?」

 ブラフマーは視線を下にずらし、自身の体を見た。そしてそこには、綺麗な肌色が広がっていた。

「何だ、服なんて別にいらないだろう」

「いらなくねえよ⁉」

 レイはとっさに後ろを向いてよかったと心底安堵した。光が人の輪郭を捉え始めたあたりで危険なにおいがした。何せ、その光は明らかに身長が低かったのだから。そしてすぐに警戒センサーがフル稼働した。根拠のない理由に助けられたのだ。もし本能に従わずそのままでいて直視してしまったらそれはもう犯罪だ。ここは人がいないから通報されることは無いが罪悪感が否めない。

「ブラフマーさんお願いですから服を着てください。その《創造者》の力を使ってさっさと服を造ってください」

 すぐ後ろに全裸の少女がいると考えると色々とまずい気がするのでレイは懇願するように言った。

 対してブラフマーはフム、と唸ったのちその状態のままレイに歩み寄った。

「じっとしていろ」

「え、ちょまて、おい! なんで俺の背中に手を当てる⁉」

「黙れ喚くな」

「いやお前がおかしいんだよ!」

「黙れと言っている。殺すぞ人間」

「ひぃ……」

 ブラフマーの圧に気圧されレイは抵抗をやめた。やっぱりコイツは人間じゃねぇ。存在感が圧倒的すぎる。レイは負け惜しみの言葉を頭の中で浮かべ裸の少女に触られると言う何とも不思議な体験を味わうことに。

(……………)

 レイはただ無心で今の状況を乗り切ることにした。

 ブラフマーの手がだんだんと上がってくるが気にしない。

 手がうなじに当たり、ぞわっとするが気にしない。

 髪を触られたが気にしにない。

 そして髪を思いっきり引っ張られたが気にしない――なんてことはできなかった。

「イッテェッ!」

 突如として襲ってきた痛みにレイはその場にしゃがんで頭を押さえた。それでも彼は決して後ろを振り返らなかった。不注意な行動は不用意なトラブルを呼び寄せるのである。

「フム、これでいいのか?」

 ブラフマーの声にレイはやっと本人を目にした。

 金色の髪に赤い瞳、レイより一頭身以上低い背丈の少女は、赤地に金刺繍のスカート型の軍服を着ていた。

「なんだ、普通じゃん……」

 服を着ると言う常識がない彼女はどんな服をチョイスするのかと少し不安になっていたがレイだがそんな心配はいらなかったようだ。ブラフマーは自分で選んだ服が大層気に入ったようで腕を組み、鼻をフンっと鳴らしていた。

「貴様と私の髪を使ったからな、よくて当然だ。貴様の分も用意したぞ」

 ブラフマーは誇らしげにレイを指さし言う。「貴様の分も」という単語に反応してレイは自身の体を見下ろす。すると、ブラフマー同様赤地に金刺繍の軍服を纏っていたのである。見事なものだと素直に感動していたが、ちょっと違和感を感じた。なんかゴワゴワするのである。違和感のままにボタンを外すと、軍服の下に学院の制服を着ていたことが判明。

「お前服の上に服着せんなよ!」

「知らんな。私は作ることしかできないんだぞ? よって私の責任じゃない」

「あーもういい」

 その傲岸不遜な態度にレイは反抗することを中止。何を言ったところでこの少女は意見を変えそうにない。

 二重に来ている服は放置。さすがに少女がいる前で着替える気にはならなかった。違和感が半端ないが仕方がない。

「つか、お前どっから出てきた?」

「ん? 言ってなかったか? 私の核はお前の心臓と融合している。つまりそっからだ」

「いや聞いてねえし……」

 レイは抗議のまなざしをブラフマーに向けるが彼女の言っていることを当てはめると納得いくものが多かったので自重。

「俺の体に何の痕跡もなかったのはそのせいか?」

「ああ、できれば私の存在は隠したかったからな。ちなみに貴様が権能を自覚しなかったのもそれが原因だ。目に見えないものを知ることなんてできないからな」

 彼女の言い分では天性力を獲得した瞬間に権能が分かるのは目に見えている、もしくは何か身体に違和感がある、つまり形として目の前にあるからなのだと。

「俺の心臓と融合したってことは俺が死ぬときお前も一緒に死ぬってことでいいのか?」

「今は貴様を通して実体化しているが今も封印状態のままだ。もし貴様だけ死んで私が誰かに利用されたらたまったもんじゃないからな。貴様が生を止めたとき私も一緒に逝こう」

「さらっと命一つ俺に乗せんなよ……。まあ毛頭死ぬつもりなんてないけど」

 レイは困ったように笑って見せる。彼女もこういってはいるが自身が死ぬことなど頭にないのだろう。その余裕な態度がそれを物語っている。

「さて、次は住まいだな」

「お前何をする気だ……?」

 自分の家に住むとか言い出しそうな雰囲気にレイは恐怖した。さすがに見た目十四以下の少女を家に住まわせたくない。現在レイの家に家族といった者は居ないがさすがにちょっと気が引けた。

 だが、そんな心配は無に帰すことになった。

「私たちの拠点は必要だろう? それも、この国の息がかからないところに」

 ブラフマーは指をパチンと鳴らす。すると、ただでさえ高いところにあるこの崖よりも高い上空に、突如として島が現れた。直径にして数百メートルはある大きな島だ。

「は……………?」

 レイは口をぽかんと開けすっかり呆けていた。しかしこれはレイだけに限る話ではないだろう。島だ、島が虚空に現れ宙に浮いているのだ。驚くなと言うほうが無理がある。

 それを証明するように街の人々も、この島を見るなり仰天していた。

 それを当然とばかり語る《創造者》ブラフマーはまたもや指を鳴らす。

 すると次は、崖から島にかけて一本の道が現れたのだ。それも一瞬で。宇宙を創った彼女はやはり化け物だ。

 しかしこれほどの創造をしておいてレイに対して何の脱力感も無かった。核は体内にあるとはいえ権能を使っているのはあくまでもいま目の前にいる少女らしい。本人が権能を使う分にはレイにフィードバックは無いようである。

「何を呆けている。私たちの住居だ。貴様が来なくてどうする?」

ブラフマーは急かすように促した。どうやら場所が変わっただけで一緒に住むのに変わりはないようである。

「あ、はい……」

とっくに思考を放棄したレイは、言われるままに彼女の後を追った。



   #

 突如として現れた空中に浮く大きな島。そこからレイとブラフマーは、誰も見ることのできない絶景を眺めていた。ちなみにレイが二重に服を着ていた件は、流石に本人も流石に違和感があれだったようでローブとネクタイだけは外した。本当のところではズボンも脱ぎたかったのだが目の前に少女がいるので――以下略。後この島に足を踏み入れた途端、崖から繋がっていた道もなくなった。

 この島の上には家が一つ建っていた。この国の一般住居よりはでかいが貴族の館よりは小さい、くらいの大きさだ。家のほかには何もなく、ただ草原が広がっていた。結構広いスペースがあり、畑や酪農ができそうなくらいだ。と言ってもそんなスキルを持っているやつがいるわけでも無いのでただの運動場になりそうだが。

「こうしてみるとこの国を創った始祖ユミルも中々憎めないな」

 自然豊かな大地に活気のある街を見下ろし、この世界の真実を知ったレイがそう呟いた。

「何だ、ここまで来て引き返すのか?」

 自身を宇宙の《創造者》だと名乗り、この島を一瞬で創ったりと人間を超えた絶技を披露したブラフマーが冗談交じりに返す。

「まさか、別に俺はこの国をほめただけであって始祖自体は何とも思ってないぞ?」

「分かっている。冗談だ」

「お前と会えてよかったかもな」

「どうした、会って間もないのにもう別れの挨拶か?」

「お前意外と冗談うまいな……」

「ハッ。私だって意思のある一つの存在だ。言葉をちゃんと使えないでどうする」

 レイの関心をブラフマーは鼻で笑った。

 レイもそれもそうだなと笑ってこの国の中心に生え、新しい世界が狂った元凶である、この高さまで来てもまだ上がある世界樹を見上げた。

「これからが俺の、俺たちの新しい人生のスタートだ」

 レイは天性力授与式の際渡された天性力を操る人間――天人の証である十字架の刻まれた金のプレートを取り出し、天を否定する証として空に向かって投げ捨てた。

 金色の軌跡をたどりながらレイは笑みを浮かべ、新たな戦いの宣言をした。


「ここは俺達人間の星だ。部外者には退場してもらおうか」


 ――こうして、信仰という概念から脱した一人の少年と、この世の中心とも呼べる一人の少女の、新たな物語が幕を開けた――

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