第20話 カレン・アロイザー
そんなこんなでレイとリタも集合場所についた。
肉組の二人は先についていたようで、レイ達の姿を見るなり手を振り存在を主張している。
リタはくすっと笑い、二人のもとへ駆け足で向かう。
「食材調達ご苦労様! どう? いいお肉買えた?」
「もちろん、私にかかればこの程度朝飯前」
「クリスの観察眼は素晴らしかったですわ!」
「カロンはまだ来てないみたいだな」
レイは辺りを見回しながら言った。人だかりがところどころあり、ちゃんと見えていないがカロンは意外と存在感が強いのでいればすぐにわかる。
「でもカロン待ってたら結構遅くなるかもよ?」
「レイ、ここでカロンを待ってて。ここが私の家」
クリスは一方的にそう言うと、紙切れに地図を書いてレイに渡した。どうやらレイに拒否権は無いようだ。
レイにも断る理由がないので快く引き受ける。
「おう、カロンと合流次第そっちに向かうわ」
「ん、よろしく。それじゃ先行こ」
「はーい。そういや誰かの家行くなんて初めてかも」
「うふふ、楽しみですわ」
そう言って女子三人組は一足先にクリスの家へと向うのであった。
それから数時間たってもカロンが来なかったなんてことは無く、十分くらいですんなりカロンは姿を現した。
レイが注目したのはカロンの隣、漆黒の長い髪、カロンと色は同じだが雰囲気は明るい瞳をした少女だ。そして何より目を引くのは彼女の服装。この辺りではあまり目にしない花柄ノースリーブのワンピースを着ていた。
カロンと少女はレイの前で止まり、カロンから話を切り出した
「紹介しよう。こいつが俺の妹、カレン・アロイザーだ」
カロンの言葉に合わせぺこりと一礼した花柄ワンピース改めカレン。その様になっている動作にさすがカロンの妹と思いつつレイも正しく対応する。
「ああ、君が。兄弟ってやっぱ似るもんなんだな。俺はレイ・ヴィーシュカル、よろしくな、カレン」
「あなたがレイさんなんですね! いつも兄さんが話してますよ。「レイは俺の最高の親友でありライバルだー」とか」
「カレン、余計なことを言うな」
カロンはちょっと恥ずかしくなったのか慌て気味で会話に割り込む。
そしてレイは、口元を両手で押さえ目をウルウルさせていた。
「カロン……! そんな風に思ってくれてたなんて、俺は嬉しいぜ……ぐすっ、ぐすっ」
口元にあった手が次第に上に向かい、次は目を腕で隠し嗚咽を漏らした。
そのあからさまな演技にカロンは殺意を覚え声のトーンを下げ威圧するように言う。
「今すぐその茶番を止めろ。切る捨てるぞ」
カロンは腰に差した剣――〈ミカエル〉の柄まで握っている。
流石に洒落にならないので、レイは演技をやめた。
「ちょ、ちょっと待て早まるなカロン! 俺はまだ死にたくない!」
「……フン」
レイの必死の訴えにカロンは手を引いた。
「クスッ」
二人のやり取りを一歩引いたところから見ていたカレンは思わず声がこぼれる。
そこ笑い声を聞き取ったレイとカロンがカレンに振り向き怪訝な顔をする。その動作が全く同じだったのでカレンはさらに楽しそうに笑った。
「二人があまりにも仲良しさんだったからつい……。本当に二人は親友なんですね」
「当り前だろ? カロンとは学院に入学してから五年間の付き合いだぞ?」
「それもそうですね。少し安心しました。兄さん家では体の弱い私にずっと付きっ切りでしたから」
「それはお前が気にすることじゃない」
「ほら、ずっと私のためって言ってきかないんです。――そう言えば兄さん、今回私をみんなに紹介したいって言ったのはもうすぐお別れだからですか?」
「それもあるが、第一の理由は前々からお前に言われていた「友達作って紹介しろ」を果たすためだ」
「それ何年前の話ですか兄さん……」
カレンはあきれた風に言った。
数年前の言葉をずっと覚えている辺り、カロンはシスコンで間違いないようだ。
「ま、いいです。私のために頑張ってくれる兄さんは嫌いじゃありませんから」
「出来た妹だなぁ。カロン、大切にしろよ?」
レイは完璧すぎるカレンに感銘を受け、カロンの片に手を置き慈しみの言葉をかける。
カロンはすました顔で即答。
「当り前だろう。――それより、他のヤツらはどうした?」
カレンが呆れたようにジト目を向けるとカロンが話を変えた。カロンは妹に弱いのか優しいのか、あるいはただ甘いだけなのか。
レイもこれ以上カロンで弄るつもりもなく、現状を簡単に説明した。
「女子三人なら先にクリスの家に向かったぞ。先に帰って料理の下ごしらえをしておく……みたいな感じだったか? まあ、そんなわけで俺が案内役になったってわけ。渡された地図を見る限り少し歩くようだからさっさと行こーぜ」
レイはそう笑いかけ、地図を見てクリスの家のほうへと歩み始めた。
「そうだな。カレンにこれ以上人間だらけの汚染された空気を吸わせるわけにはいかない」
「兄さん? 少しは身内以外にも優しくなりましょう?」
カレンは文句を言うもカロンの隣にピッタリと張り付いている。
カロンもカレンに歩調を合わせ一切乱れることなくレイの後を追う。
「兄さんはついに天人になったんですね」
カレンは兄の首から下がっている金のプレートを見つめ言った。その眼には憧れと激励の意志が籠っていた。
「ああ、しかしお前の体を治す力は手に入らなかった。どうやら自分の願望を優先してしまったそうだ、すまない」
兄の謝罪を妹は慌てて否定した。
「兄さんは悪くありません! 兄さんが自身の想いを優先してなにが悪いんですか! それに私のことを心配する必要はないです。医者が言っていた余命十年も本当のことかわかりませんし、私たちはミズガルズに行くんでしょう? そこなら私の体をよくする方法があるかもしれないです。ですから兄さんは自身のしたいようになさってください。兄さんが言ってた〝自分の信じる絶対正義〟の願いがその天性力を呼んだのでしょう? 兄さんはもっと自分を優先するべきです!」
妹のお叱りを受けたカロンは、目を伏せやれやれと言った様子で溜息を吐いた。
「まさか妹に叱られるとはな。わかったよ、少しは自分にワガママになってみるさ」
それを聞いてカレンは満足そうに笑った。
「おーい! 二人してなに突っ立てるんだ?早く来ないと置いてくぞー」
「フッ、全く気楽なやつだ」
遠くから聞こえてくる親友の声にカロンはいつもの調子を取り戻し、妹も合わせた三人で夕食パーティーの会場へ向かう。
#
空がオレンジからだんだんと淡い青へと変わっていく夕刻。
立ち並ぶ鋭角の屋根の上に、カテドラル学院の制服を身にまとい、フードを目深まで被った一人の少女がいた。
フードが風にあおられチラチラとピンクの髪が覗く。
「やっぱりあの目は使えるねぇ。こうも簡単に事が進むと罠かどうか疑っちゃうよ?」
少女は遠足の前日のようなどこか浮かれた様子で口元に笑みを浮かべている。
「もともと今日決行するつもりだったけどぉ、まさか明後日他国に行っちゃうなんてねぇ、ちょっと寂しいかも」
おどけて言う少女に本心は全く感じられない。
「メイン標的はリタとクリス。邪魔はレイ、カロン、セレジア……あとあのおしゃれな女の子は誰ぇ?見たところ天性力らしき物は持ってなさそうだけど……」
少女は数分前とある建物に入った三人と、今商店街の手前で立ち止まっている三人を交互に見ながらつぶやく。
「天性力は分かってるけど、使用者との同調具合と権能の規模が分からない。よし、作戦へんこぉ! まずは確実に一つ戦力を削ぐ事にけってぇ!」
少女はそう言って、学院を卒業した証である銀色の羽の形をしたバッチと、天を信仰する証である十字架を外す。
そして五芒星の描かれた指の出る手袋を左手にはめる。
「ノエルのために、死んでねぇ?」
天を信仰する証たちを宙に投げ、大鎌を振り、真っ二つにした。
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