第11話 決勝戦

レイとカロンは試合開始を今か今かと待ち望んでいる。何せ出会ってから五年間、二人はずっと競い合っていた。その競争に今日決着をつけることが出来るのだ。それも最終試験の決勝戦で。これほどの状況下でやる気が漲らないほうがおかしい。ステージ上で二人は今までにないほどの集中をし、教官の合図を待つ。

 ――そしてついに、

「これより最終試験トーナメント決勝戦を行う。己の信仰心を見せてみろ! 試合開始!」

決勝戦が始まった。

 レイが先手を取った。カロンの戦法は知っているが、彼の戦い方は決してそれだけではない。そのことを熟知しているレイは、何かされる前に攻撃を仕掛ける。

「最初から全力で行くぜ! 〈ヴォイドリージン〉!」

 直径三十センチくらいの球状の「無」が現れる。この球に触れた物は何であろうとも無に帰す、そんな凶悪な魔法がカロンに迫る。レイはこの魔法をただ強いから使ったわけでなく、自分に有利な状況を作るために使った。何せこの魔法は「無」。触れた物が無くなるのだ。カロンの干渉力をもってすれば防がれそうだが、目的はカロンに当てる事ではなく、一瞬でも「無」に意識を向けさせることだ。レイの作戦は的中し、カロンはこの「無」を危険視したようだ。

 それなら後は簡単。レイは片手剣を錬成し、「無」と同時に斬りかかる。

 だが、レイの攻撃をカロンは冷静に対処して見せた。まず厄介な「無」を氷の壁を何層にも重ねることで防ぎ、そして氷で剣を形どりレイの剣を受止める。

「そんなぬるい攻撃で俺は倒せないぞ? 〈フリーズブレス〉」

 カロンから冷気が溢れ出る。レイは後方へ跳んで冷気から逃れるが、剣は冷気を浴びたようで凍り付いていた。凍った一か所から氷がどんどん浸食していく。レイはもう使い物にならないと判断し、今持っている剣を捨て新しい剣を錬成した。

 これで一度仕切り直し。今の攻撃が全く通用しなかったので、次はどう攻めようかとレイが考えていると次はカロンが先に動いた。

 カロンの動きを見た者全員が驚愕した。剣を構えレイに向かって真っすぐ走っていたのだ。今までそんな行動を一度も見たことが無いために、レイの思考は一瞬止まりかける。それでも体は自然と動き剣を構えていた。カロンがどう来るか、レイが少し緊張して身構えていると、カロンはいきなり止まり、手に持っていた氷の剣をレイに投げつけた。

「なッ⁉」

 レイは完全に不意を突かれたが何とか剣をはじく。しかしレイが安堵出来たのもつかの間、カロンが右手を天に掲げ

「〈アイシクルフォール〉」

 振り下ろした。レイの頭上に突如として雨雲が現れ、そこから無数の氷柱が降り始める。あんなでかい氷柱を一瞬で作るなどあの雨雲はいったいどうなっているのだろうか。        特効と見せかけて投擲と見せかけて頭上からの攻撃、相手の意表を突く見事な三段攻撃だ。

 並みの生徒ならばここで終わっていたかもしれないが、流石はライバル。自身の魔法の多様性を生かししっかり対処する。

「〈アブゾーションフィールド・レイ〉! おいカロン! てめぇクリスと同じようなことしやがって! あれちょっとトラウマになってんだよ! 〈リフレクション〉!」

 レイは文句を言いつつも、しっかり防御する。意外と器用な人間だ。そして氷柱が止むと同時に〈リフレクション〉で受け止めた分の氷柱を全部カロンに返す。

 カロンの頭上に氷柱が現れ、リプレイを見ているかのようにカロンに氷柱が降りかかる。

「〈カストルレイション〉」

 カロンの頭上に一辺五メートルくらいの氷の膜が現れる。その膜が降ってくる氷柱を受け止め、吸収していく。吸収するたびに体積が大きくなるその膜は、氷柱が止むころには一辺五メートルの立方体になっていた。

 カロンはそれを、手を動かすことで操作し、一個の巨大な円錐――氷柱にした。

 レイはその巨大な氷柱が自分に向けられると思うとギョッとした。こんなにでかい氷の塊は見たことが無かったのである。しかしこの状況はカロンの思惑と、氷使いに氷で攻撃したレイの頭の残念さからなったものでもあるのだが。

「〈エクスプロージョン〉!」

 レイは巨大な氷柱が飛んでくる前に爆発を起こし破壊することに成功。これで一度互いの手札がなくなり仕切り直しへ。ここは戦略を立て直すために両者時間稼ぎを始めた。

「この程度か? 他人に通用した技が俺に通用すると思うなよ」

「チッ、いい線行ったと思たんだけどなぁ。……さすがカロンってわけか?」

「どうだろうな。お前を知っているからこそできた戦略でもあるしな」

「へぇ、やっぱ知ってるって有利にも不利になるんだな」

「そうみたいだな。――でもお前、さっき思いっきり焦っていなかったか?」

 カロンはさっきの三段攻撃をした時のレイの反応を思い出し指摘する。直球で触れてほしくなかったところに突け込まれ、レイはあたふたと言い訳を論じた。

「い、いや~あれはちょっと驚いたというか何と言うか……。つか、結果防げたんだから何でもいいだろ!」

 言い訳を言い始めたかと思うと即座に開き直った。

「……確かにそれもそうか」

 カロンも何も言わず納得する。意外と彼にも適当なところがあるのだろうか。

互いに苦笑を交わし、再び試合を動かす――。

「さぁ! 勝負はまだまだこれからだぜぇ! 〈イグニッションブースト〉!」

「ああ! 存分に楽しませてやる!」

 レイは身体強化の魔法を使いカロンに斬撃を仕掛ける。氷結魔法は身体強化などの使用者にバフ効果をもたらす魔法は凍らすことが出来ない。よってレイの身体強化も無効化することができず、カロン得意の相手を凍らすという戦法は取れない。

 それでもカロンはレイの斬撃をしっかりと対処して見せた。〈イグニッションブースト〉によって超人的なスピードで振られる剣を、カロンは先読みして自身の一部を凍りで覆う事で防ぐ。しかしそれだけでは心もとないので、氷の剣を作りレイに応戦する。 

 そのあと何度も剣が降られるが、カロンは身体強化を使用せずにレイの攻撃をすべて自身の技量のみで捌き切った。しかもカロンの防御は、うまく威力が分散するように受けているので自信を覆う氷が壊れることも無い。カロンと言えば氷結魔法で全てを凍らす戦法が主流だと思われがちだが、彼の本来の得物は剣、剣の弱点である隙や死角、遠距離攻撃などを氷で補う、最強の剣士なのである。

長い付き合いであるレイはそれも承知しての身体強化だったのだが、カロンの剣筋があまりにも速すぎた。

(マジかよ……身体強化してやっとまともにやりあえるってカロンの動体視力どうなってんだ……)

 身体強化を解くだけで切り捨てられる。カロンの剣筋はそれほどまでに速い。かといってずっと身体強化を保つわけにもいかないので、どうにかカロンに一撃入れようか思考をフル回転させる。

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