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初めてイーヴルとちゃんと飲み、程良く酔ったリアンが帰宅した。軽くシャワーを浴び、着替えて冷えた水を飲む。
──『リアン、目を通したら必ず確実に処分してくれ。俺が探し出せた分の管理課の情報だ。6隊の今後に関わるかもしれない』
イーヴルが意味深な発言をもって渡して来た書類が気になった。タオルを頭に掛けたまま、デイパックに仕舞った封書をそっと取り出した。大判ではない封筒に数枚のコピー用紙が納められていた。広げてみれば、イーヴルの手書きのメモが綴られている。
1枚1枚、丁寧に読む。そこに綴られていた事は、リアン自身初めて見る内容だった。
──『東方管轄区管理課』とは名ばかり、実際には東方にあらず。
──『東方管轄区』は通称『影(shadow)』と呼ばれる部署であり、軍部の裏を扱う部署。
──現在の『影』は2代目であり、初代共々『アレス』の名の下に展開されている部署となる。
──『影』には対となる『壁(wall)』が存在する。
──『影』と『壁』は表裏一体。『影』の存在を隠す為に『壁』が存在する。
──中央管轄区第6小隊は次世代の『壁』として育成がされている。
──『影』は裏向きの特殊部隊、『壁』は表向きの特殊部隊。
──『壁』は通常任務の際には通常部隊名で仕事をするが、『影』が入る仕事になると『壁』の役割を果たすべく、『壁』として仕事に入る。
──なお、これらの情報において詳細を知る情報提供者が存在する。個人的見解として、6隊はメンバー変更がない特殊部隊として、意義があるものとして上層に認知されている可能性あり。
多くない情報ではあるがそれは辻褄の合う内容であり、この内容は6隊と言うよりもアイゼンそのものの先を指す内容であった。
アイゼンが『アレス』の名の者だから『影』となり、6隊はその『影』と対をなす『壁』となる。どう言った経緯で6隊が壁となるのかはわからないが、裏ではそのつもりで育成されている。自分達は知らず知らずの内に、そのレールに乗せられていた様だ。
──『いつでもリアンとアイゼンは背中合わせ、表裏一体だもんな』
居酒屋でイーヴルがリアンに放った何気ない一言を思い出す。全く、その通り抜けだ。リアンとアイゼンは所謂光と影、壁と影。お互いが背中合わせだからこそ表裏一体。それは今に始まった事ではない。
「…そうなのか、アイゼン」
第6小隊長と東方管轄区管理課、リアンとアイゼン。2つの関係性に気付いてしまったリアンはひとり深慮する。きっとアイゼンはそれを知りながら、6隊から管理課へと異動をしたのだろう。リアンと背中合わせをする為に、それを選択したと言う事。ならばリアンが選ぶべきは、アイゼンの意思に従う事のみ。
「わかったよ。僕はこのまま6隊で全うするだけさ」
イーヴルのメモを頭に叩き込み、リアンは封書とメモと呪符を1枚持ち洗面台に赴くと、洗面台に詮をして水を張った。メモと封書をそっと水に浮かべると、その上に呪符を乗せる。右手の指先で呪符に触れるとそっと解放宣言をした。バチ…っと火花が散り封書とメモは燃え尽き、洗面台に張った水に消え去った。
「アイゼン、僕はこのまま6隊を率いれば良いんだね。アイゼンが『影』となるなら、僕は『壁』として『影』を隠す事に徹するよ」
これが『壁』が『壁』として成立した瞬間だった。
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2020/04/20/010
『この小さな世界の構成者達へ』 伽那 @kanalibe2nd
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