7日間勇者
長月瓦礫
7日間勇者
21回目、魔王城。
勇者nは最適化に成功した。
モンスターを倒すことで得られる経験値は常に最大値、自分たちの装備品は3日目にして最強と謳われる物を手に入れた。
さらに会話のスピードを倍速させ、情報収集やイベントのフラグ回収を即座に行う。
通れない道を無理矢理通過したことで、魔王城には最短距離で到達した。
上げられる能力は全て上げ、カンストさせた。
これですべてが整った。
勇者nは7日目に魔王を倒さなければならない使命を負っている。
時間が1分でも過ぎれば強制的に魔王からのリンチが始まり、仲間もろとも皆殺しにされる。
そして、自宅に強制帰還され、再び勇者として旅立たなければならない。
ステータスもリセットされ、仲間も一から探さなければならない。
これを繰り返して早数十回、彼は次第に効率を求めるようになった。
日数を数えるのは途中からやめた。
後ろにいる仲間たちは何も言わない。
所詮、彼らは意志を持たないキャラクターだ。
勇者らしからぬ数々の外道行為に、文句を言えるはずもない。
彼は慎重に後ろを振り返る。仲間たちは神妙に頷いた。
強制的に発生するイベントで、スキップできない。
両扉を開けると、玉座に座った水晶体でできた何かがいた。
宝石のような透明感のある輝きを放っており、魔王には見えない。
似たような生命体は至る所に存在しており、諜報役を担っていた。
「21回目の挑戦、お疲れ様。
両手両足の指の数に頭を足せば、スッキリするわね」
おどけたように両手を広げ、首をかしげる。
「魔王、今回こそお前を潰す!」
聖剣の切先を向けた。このやり取りも決めポーズも21回目だ。
いい加減、飽きてきた。
「いいわよ、私は」
地面から無数の棘が突き出た。「むしのしらせ」というスキルを全員会得していたおかげで、突然の罠も回避できた。
初めて挑んだ時は訳も分からないままに串刺しにされた。変身中のヒーローに攻撃する怪人はいないのに、会話中に攻撃してくる馬鹿はここにいるのだ。
「何度でも受けてあげるから! かかってきなさい!」
「行くぞお前らァ!」
それぞれ声を張り上げ、ようやく戦闘に入る。
身体強化の魔法を片っ端からかけ、シールドを展開する。
その隙に魔王は立体迷路のような弾幕を打ち、玉間の至る所から極太の光線が放たれる。ナイフが無数に飛び回り、勇者一行の攻撃を受ける囮が踊る。
床をすり抜け、見えない壁を乗り越える。
時間が何度も行き来して、止まって動く。
ああもう、何もかもがめちゃくちゃだ。
魔王はすべてを殺すために、ここにいる。
勇者はすべてを救うために、ここにいる。
最初から常識なんて存在しなかった。
非常識、荒唐無稽、理不尽、不可能、絶望、どれだけ言葉を使っても言い表せない。
それだけ人間に対する怒りと憎しみが深いのだ。
攻略させる気がないのなら、反則技を使ってでも倒す。
それが勇者nの決意だった。
弾幕を乗り越え、魔王の懐に飛び込んだ。
聖剣を振りかざした。ようやく勝利が見えた。
その瞬間だった。
「だいばくはつ」
魔王がぽつりとつぶやくと、あたり一面光に包まれた。
轟音と共に勇者の意識は消し飛ばされた。
***
「よっ、お疲れさん。今回はどうだった?」
少年が片手を上げた。ゆっくりと体を起こす。
戦闘で受けた傷はすべてなかったことになっている。
ここはすべてが終わった後に来る世界だ。
今までの総決算をし、評価が下される。
魔王との戦いを繰り返すうちに、評価も徐々に上がっている。
「何が起きた」
「ん?」
「最後のあれ、なんだよ」
「あー、あれ? いわゆる最終兵器ってヤツ?」
足元に置いてある酒瓶を一気に飲む。
「最終兵器ぃ?」
「そうそう。アイツ、最後の最後で爆発すんのよ。
いやあ、今回はほんっとうに惜しかったのう。
あそこを回避できていれば、晴れてエンディングだったというのになあ?」
ニヤニヤしながら、逆の手で口を拭った。
「ま、あそこまで追い詰めたんじゃ、世界平和は近いぞい」
開いた口が塞がらない。
あれだけ派手に暴れておいて、最期に自爆かよ。
「あんなん避けきれるわけないだろ……」
「それを考えろと言っておるんじゃ。
どこかにフラグがあるはずじゃだから、探し直せ」
神はあっち行けと言わんばかりに、片手を振った。
竜巻が足元から巻き起こり、体が宙に浮く。
いつもそうだ。手のひらで遊ばされて、終わるんだ。
「チクショオオオオがあああああ!!!!!!」
渾身の絶叫がこだました。勇者nの冒険は続く。
世界に平和が訪れる日はいつかきっとたぶん来るはず!
7日間勇者 長月瓦礫 @debrisbottle00
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます