【中3】世界を救う孤独な旅

覚醒するように目を覚ました僕は森の中の川沿いでリュックを背負いながら寝転がっていた。一瞬、何が何だか分からなかったけどすぐに状況を思い出す。


「――そうだった。やっと水を見つけて...。昔の夢見ちゃってたな」


意志に関係なく出てきたため息を口から吐き出してからまだ疲れが残る体を起こす。出来れば動きたくないと思いながら両方の目頭を指で押さえる。すると足音が聞こえ僕は警戒しながら顔を上げた。だけどその警戒はすぐに静まった。森から出てきたのは犬。やせ細りどこか悲し気な表情をした犬だった。顔を俯かせて地面の匂いを嗅いでおり僕に気が付いているのかは分からない。


「何だ良かった。――ほら。おいで何もしないよ。あっ!そうだ」


僕はリュックからジャーキーを取り出すとそれをまだ距離のある犬に差し出す。


「食べる?」


その匂いを嗅ぎつけたのか犬は地面の匂いを嗅ぎながらこっちに近づいてきた。だけど数歩近づいたところで足を止め僕の方へ顔を向ける。そして僕の顔を見た途端、先ほどまでの表情から一変し歯を剥き出しにして唸り声を上げ始めた。


「ご、ごめん...」


それは今まで嫌という程に向けられた敵視の目。このままだと襲い掛かられる。そう思った僕は急いでリュックを背負って立ち上がった。


「これ置いておくね」


言葉とジャーキーを置いて刺激しないように犬の方を向きながらゆっくりとその場を離れた。そして森の中をまだ疲労の残る足で歩き始める。疲労が残っているにはいるけどやっぱり水を飲めて少しだけ休憩も出来たおかげ大分楽にはなっていた。


「僕の読んだ本だと何人か仲間がいて楽しく会話しながら旅をしてたのに...はぁー」


別に1人が苦手というわけでも嫌いというわけでもないけれどこういう状況だと少し寂しいかな。でも仲間はいない。それが現実。今の状態じゃ仕方ないって分かってるけどやっぱりため息ぐらいは出るよね。そんなことを考えながら森を更に歩いていると気が付かぬうちに魔物と出くわしてしまった。飛んでるガルラが3匹と犬っぽいドッガが4匹か。戦う気分じゃないけれどこの森に入って来た人が襲われるかもしれないし。


「はぁー」


またため息が零れる。だけど魔物は今にも襲い掛かりそうで、僕も剣に手を伸ばして引き抜き先手必勝で突っ込む。そんな僕に合わせるように1匹のドッガが飛び掛かってきた。だけど冷静に剣を一振り。それで1匹目を仕留めるとそれを皮切りに残りの魔物との戦闘も始まった。この剣の見た目は初めて見た時と同じ。だけどあの時と違ってこの剣を握ると重さは全然感じないし、何よりまるで幾多の戦闘を経験してきたかのようにどう戦えばいいか分かる。体も自分の物じゃないみたいによく動く。以前だったら魔物1匹でも危険だったけどこの剣を使えば複数の魔物でも...


「ふぅ。片付いた」


難なく倒すことが出来る。そしてあっという間に全てを倒し切り剣を仕舞おうとしたその時、まだ生きていたドッガが一瞬で起き上がると隙を突いて飛び掛かってきた。


「わっ!」


あまりの驚きに声を上げながらも体は冷静だと言うように剣を振りドッガを上下に斬り分けた。そのおかげで一瞬にして込み上げてきた驚きという感情が無くなり平常心になる頃にはドッガは倒れ脅威は無くなった。


「ふぅー。危なかったなぁ」


そして胸を撫で下ろしながら僕は手に握る剣へ視線を向けた。たまにこの剣が怖くなる。今みたいに自分の意志とは別で動いている気がして。僕の無意識によるものならまだいいんだけどもしこれが剣か何かの力で勝手に動かされているなら、いつか魔物以外も傷つけてしまうかも。そう思うとこの剣が怖い。そんな僕の気持ちなんて知らん顔の剣はどこか不気味に笑っているようで僕は隠すように鞘へ納めた。剣が鞘に収まるのと同時に魔物死体は風に吹き飛ばされる灰のように消えていった。それを見届けた後に僕は再び歩き出す。森の終りはそこから少し歩いた先にあったけどそこにはどこまでも続く草原が広がっていた。見ているだけで歩き疲れる程に終わりの見えない草原。僕はとりあえずポケットからコンパスを取り出した。何とかコンパスっていうどういう原理かは分からないけど目的地を覚えさせるとそこを指してくれる物。そして今、僕が向かっているのはソリドラ洞窟。そこにいる魔王の手下を倒してこの剣の欠けた力を取り戻さないといけない。ソリドラ洞窟には数いる魔王の手下の内の1人がいるらしい。その魔物を倒す。それが今の僕の目的。


「行くしか選択肢はないか...。――よし!行こう」


言葉だけでも気を引き締めると僕は足を踏み出してソリドラ洞窟へと歩き出した。


###


            世界中に嫌われながらも

         それでも魔王を倒し世界を救おうとする

       フィリブ・アルナートの旅はまだ始まったばかり...

                                   】

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世界に嫌われた勇者はそれでも世界を救う 佐武ろく @satake_roku

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