【中2】呪いの剣
この世界は魔王という存在が現れ、魔物という化物が徘徊し始めてからより一層物騒になった。魔物は様々な姿形大きさをしていてその強さも個体で異なる。そして老若男女、誰彼構わず人間を見ると襲い掛かるという恐ろしい存在。そして一部の魔物は何やら不思議な力を持っているらしい。この魔物と魔王という存在のせいでこの世界の人達は気軽に外へ出られなくなった。だけど同時に強い人達がより多く稼ぐようになったからその人達からすれば全部が全部悪いわけでもないのかもしれない。
それでも魔王の恐怖は確実にあって、世界は物語に出てくるような、僕ではない『勇者』を求めいた
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世界のある場所に『ホルテック』という町がある。出入りするのは商人や時折通る旅人ぐらいのその町は大きくはないけど人々が互いを支え合っている良い町だ。そんなホルテックから少し離れた場所にある森を少し奥へ進んだところに一軒の家がある。森の中にあるせいかコテージにも見えるその家から、僕はかごを背負って出てきた。まだ朝日が辺りを照らし始めた時間帯。それに加え雪が降るほどではないものの対策なしではすぐに体が冷えてしまう気温だったため、しっかりと防寒対策はしていた。がしかし、
「うぅぅ。さむっ」
予想以上の寒さに身震いしながら思わずそう呟いく僕の口からは言葉と共に吐き出された息が視覚的に見えた。だけどそれはいつものことなので特に気にせずマフラーの隙間を出来る限り無くそうと直す。その最中、少し前に友人に言われた言葉を思い出した。
『お前って少し童顔で見るからに無害そうな風貌だよな』
何でそんなことを思い出すのかと思ったけど、どうやら童顔であることをどこか気にしているらしい。それもそうだ。僕は狩りや動植物のことなど色々と教えてくれた師匠でもあるおじいちゃんに憧れている。もうこの世にはいないけど、あの立派に生えた髭と歴戦の兵士のように鋭くも優しい顔。僕もあんな風になりたい。子どものころからずっとそう思ってる。だから童顔と言われ少し気にしているのかもしれない。
「でもまぁどうしようもないか」
マフラーを巻き終わり勝手に出てきた記憶も片付けると数段しかない階段を降り森へ歩き出す。口から白息を漏らしながら森を進み木を拾い薬草や果実を探した。すると僕の前を1匹の鹿が走って通り過ぎる。
「あっ!鹿だ」
思わず出た言葉と共に鹿は森の中に消えていった。それを僕はただただ眺める。
「最近お肉の貯蓄が減ってきたからなぁ。今度狩りをしないと」
そんなことを呟きながら更に歩みを進める。そしてかごの中に山菜やキノコなどが少し溜まった頃、大きく口を開けた洞窟を見つけた。
「こんなところに洞窟なんてあったっけ?」
長い間、この山に出入りしているけど初めて見る。まるで誘うように大きく開いた入り口。それを眺めていると怖いという気持ちより好奇心が勝り洞窟へ歩を進め始めた。
「でも、熊とかいたらヤバいよね。引き返そうかな」
恐怖が顔を出すものの好奇心に押し退けられ足は止まることなくどんどん奥へ進んでいく。洞窟はあまり広くはなく1本道で歩く度に足音が反響し洞窟中を駆け巡った。それから5分程歩くと行き止まりに辿り着く。だけどそこにあったのはただの壁ではなく、周りを外堀のように薄い水が囲った台座だった。底がよく見えるほど澄んだ水に天井から水滴が一定のリズムで落ちている。そしてその台座は天井に丸く開いた穴からスポットライトのように差込んだ光を浴びていた。だけど僕の目が真っすぐ見ていたのは光を浴びているのは台座ではなくその台座に堂々と刺さった1本の剣。それはまるで祝福を受けているように神々しく堂々としていた。
「おぉ...。すごい」
弓やナイフは扱えるけど剣を持ったことがない僕にとってそれは新鮮だった。そして自分には無い自信を持っているようなその剣に少し心惹かれた僕は台座の前まで足を進める。間近で見るとその剣はより神々しくて魅力的だった。
「でも何でこんな物がこんな所にあるんだろう?」
ふと頭に浮かんだ疑問だったけど考えても仕方ないと思いすぐに考えることを止めた。そして視線を再び剣へ。この剣を見ているとまるで玩具を目の前にした子どもみたいにワクワクする。
「少しなら持ってみてもいいかな?」
誰に尋ねるわけでもなかったがいいのか分からない不安を少しでも無くそうと呟いていた。だから当然返事は無くて水の滴る音だけが響く。少し剣を見ながらどうしようか悩んだけど、僕はその剣へ手を伸ばした。楽しみだけど少し緊張しながら柄へと手を伸ばしていく。そして柄を握ると引き抜こうと力を入れた。だけど僕が非力なのかこの剣が固く突き刺さっているのか、はたまた台座が意地悪をしているのか全く抜けないどころかビクともしない。
「あれ?」
少し悔しいのもあったから僕はカゴを濡れない場所に置いて再挑戦した。今度は両手で。少し両手をブラブラとして1度深呼吸。
「よし!」
そう意気込んでから柄へ手を伸ばした。そして息を止めて持てる力の全てを出し切る気持ちで剣を上へ持ち上げる。数秒だけど息を止めて全力を出し続けるのはキツくてすぐに限界がきそうだった。
「(もう無理...)」
僕が一旦諦めようとしたその時。張ってた紐が切れるように何の前触れもなくその剣が抜けた。あまり突然だったから引き抜こうとする力で僕は後ろに倒れる。そのまま尻餅をついて水を跳ねさせた。
「いてて...」
お尻の痛さが僕の中で最優先事項として横入りしてきたがすぐにそれを処理すると右手に目をやった。そこには倒れてもちゃんと握りしめた剣。僕は何かを考えるより先にそれを掲げるように目の前まで持ってきた。水に濡れ差した光を浴びたその剣はとても...。
「綺麗だ」
見惚れてしまう程に綺麗なその剣はまるで神の加護でも受けているようだった。気が付けば僕はぼーっと剣を眺めていていた。
「あっ」
ハッと我に返るととりあえず立ち上がりもう一度剣を眺める。思ったより重くて思ったよりテンションが上がった。それと気のせいだと思うけど不思議と強くなった気がした。その気持ちを胸に抱きながら軽くその場で振ってみる。イメージでは歴戦の猛者のように鋭く空を切っていたが現実はそう理想的じゃなかった。無視も殺せない程にゆっくりとしかも直線じゃなくて曲線を描いていた。何度か振ってみたがそれは変わらず見るからに弱そうな素振り。
「やっぱり筋肉とか足りてないモノが沢山あるんだろうなぁ」
少し自分にガッカリしながらも当然という気持ちもあり、そんなもんかと思いながら台座の前まで戻る。そして一応ちゃんとお礼を言ってから台座にもう一度剣を刺した。これを必要とする人の為に。
「弓ならもっと上手いんだけどなぁ」
言い訳のように呟きながらカゴを背負うと僕は洞窟を後にした。それから森を歩きつつ色々探しているとベリーを見つけ立ち止まった。そしてカゴを下ろす。するとそこには目を瞠る物が入っていた。
「あれ?何でこれがここに?」
カゴに入っていたのはあの剣。確かに台座に戻したはずだけどなぜかカゴに入っている。しかもさっきは無かった黒を基調とした鞘に収まって状態で。疑問を感じながらも僕はその剣を手に取り半分程だけ鞘から出してみる。当然ながら鞘からは先程と同じ剣身が顔を覗かせた。
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