猫って人間になれましたっけ...??

琥珀糖

第零章 お出迎え

暗い道のりを力の限り、全力でダッシュする。

時間は午後七時、普通の高校生なら帰りついている時間だが、生憎と掃除当番を押し付けれてしまったが故に遅くなってしまった。

未明から正午にかけて降った雨の影響で水溜まりが至るところにできている。

靴を濡らせば足取りも重くなる、だから避けながら帰っているが結構なタイムロスになってしまう。

早く帰らなければ“アイツ”がなんと言うかわかったもんじゃない。

寝ててくれたら____なんて淡い期待を抱きながら帰路を急ぐ。

走る度に滴が跳ね、街灯に照らされて綺麗____だがそんな現象も悠長に見ていられる時間はなかった__



なんとか家に帰りつき、乱れた呼吸を落ち着かせて室内に入ろうとドアノブに手をかけた。

ドアノブを引っ張ると出来る隙間から直ぐ様白い物体が顔を覗かせ、引っ付いてくる。

「やっぱ寝てないよね...ただいま、ラン」

この白い物体の正体は飼い猫のラン。真っ白なふわふわな毛と、透き通った神秘的な水色の目が特長のペルシャであり、元捨て猫。

先程、僕が駆けてきた夜道の通り、そこに捨てられていたのを偶然僕が拾ったのだ。

両親を説得することは凄く大変で、喧嘩が大嫌いな僕が何回も両親と喧嘩をした。

それでも飼うことを認めてほしかった理由は同情からか、または別の感情からか。

何はともあれ、最終的には両親も認めてくれ、今では家族共々溺愛している。

“猫の”ランは。

そう、ランにはとある秘密があったのだ。

その秘密と言うのは両親にはとても言えないような、ね。

抱き抱えていたランを降ろし、自室の部屋の扉を開ける。

木製の扉を開ければ、モノトーンで統一された僕の家具が目に入る。

ランを部屋にいれ、扉を閉め、上着を脱ぎ出すと後ろでなにかが弾ける音が鳴る。

あの合図だ。

「んー!!やっぱりこっちの方が目線高くて良いなぁ」

振り替えれば真っ白な短髪、水色の目の何処かの猫に似たり寄ったりな、少年が立っていた。

そう、ランは化け猫なのだ。

その証拠に瞳孔は人より少し縦長で、欠伸をするために開けた口からは牙が見える。

そして先程まで僕の側を離れようとしなかったランが姿を消している。

以上の理由からランはこの少年だと言えるのだ。

「それにしても!輪廻帰り遅くない?!」

頬をあからさまに膨らませ“不満だ”と伝えようとするラン。

「仕方ないだろ、これでも走って帰ってきたんだからね」

掃除を押し付けられたことはあえて言わない。

そうしなければ、明日押し付けた本人が学校に来ることが出来なくなってしまう。

なぁなぁに済ませ、制服のジャケットをハンガーに掛けた次の瞬間、視界は反転。

布地の擦れる音とベットの軋む音、何より自身の上に跨ぐように座っている少年を見上げ、「あぁ、またか」と心のなかで苦笑する。

ランは猫の時こそ可愛いが人間の姿になるとなんとも変態チックに変貌する。

俺がランとの約束を破ったり、こうして遅くなるとすぐに押し倒されてしまう、所謂過保護と言うやつだろう。

まぁ押し倒されたからと言ってそういう行為は全くもってないが。

「俺言ったもんね?次遅くなったらキスするからって」

ランがさらっと言ったキスと言う単語に思わず顔を赤らめてしまう。

ファーストキスすらまだの僕がそんな易々と受け入れられるものか。

ダメだと言う意味を込めて首をブンブンと横に振ると、腕を押さえつけているランの手に力が入り、多少の痛みが腕に走る。

痛い、と抗議しようと口を開いたが言葉が発される事はなかった。

塞がれたのだ、この変態猫によって。

ふふん、と音符が付きそうなほどご機嫌なランを見て察した。

あぁ、ファーストキスはこの変態に盗られたんだ、と。

「こ、こんの馬鹿猫がぁぁぁ!!」


そんな僕と変態猫の日常。

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