パン

白川津 中々

 銃の所持が合法となり国内での自殺者数が格段に増加したのは政府の陰謀だの隣国の侵略などと囁かれていたが何の事はなく単に「ガンカッコいいよね!」という意見が国会を席巻し与野党満場一致で銃保有の合法化が可決しただけであった。


 しかしいずれにしろ銃による自殺者が日に絶える事なく続出したのは事実であり、この事象はショックガン問題などという悪ふざけ極まりない名称で呼ばれ社会現象となる。


 世知辛い時代に若者達は挙って自殺を始めるばかりか、捨てきれない承認欲求を満たすためにその現場をライブ配信するようになった。死に至るまで誰かに認知されたいというのは哀れで悲しい性であるが、配信の流行に伴い供給過多となり視聴者が一桁に留まることもザラとなってしまったのはなんとも露悪的な皮肉である。


 そして更に皮肉なのは、配信者が視聴者数を稼ぐためにあれやこれやと銃をカスタマイズするようになり、パーツ代を得るためにクソ真面目に働くようになった事である。配信者は所持する銃を公開し、よりクールさを、ワイルドさを、ビビッドさを、セクシーさを求めた。時間と金を惜しまぬガンスミス達は競うようにしてマイガンを見せびらかすようになり、他者に負けるものかと青天井の切磋琢磨が行われた結果自殺者は減少しGDPも大いに増加。我が国には建国以来の大好景気が訪れ、長くガンバブルと呼ばれるようになる。

 この頃になるとガンブームは世界に浸透し、「銃は自分を殺すものであり他者へ向けてはならない」という価値観が定着。銃火器の使用が戦場で禁止されるようになると、人々は次第に他者を殺める事への忌避感が強くなっていく。その内に世に蔓延る紛争は全て終結を向かえ、皆が一様に平和と自由を愛すようになった。


 するとある思想が伝播する。人間とは、命とは常に一つであり皆特別なのだと。競う必要などないのだと。人目など気にしなくていいのだど。大切なのは己の魂であると。そういった博愛主義が全人類を包んだのだった。


 人類が手にした銃を見る。徐々に上がっていく腕。自身に向けられる銃口。そうだ。それでいいのだ。死は、自分だけのものなのだ。


 パン。


 世界中で、乾いた音が響いた。

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