短編ファンタジー
鱒川十一
海と星樹、鯨と少女
水に覆われた、母なる惑星。一面の水の中に、一つ、巨木がそびえ立つ。それは、たった一本のトネリコの樹は、ゆっくりと枝を伸ばし始める。
幾千の時を経て、樹には緑が生い茂る。水だけの星に、樹一つ。樹は、星を豊かにすることにした。
海は凪ぎ、空は穏やかに。樹は、生き物を生み出すことにした。
母なる魚を生み出すと、彼らは一気に星中に広がっていき、海は賑やかになった。樹が海中を覗くと、何匹かの魚が水から出たがっていた。樹は、陸を生み出すことにした。
父なる大地を生み出すと、陸地にも生き物が溢れた。4本足で歩く生き物、2本足で走る生き物、翼を上下させて空を駆ける生き物。
海も、陸も空も生を謳い、満足した樹は深い眠りについた。
生き物が生まれてから死ぬまでに、樹の葉が一枚生え変わる。樹の葉が一万の万倍の万倍、その万倍の万倍生え変わった頃、樹はゆっくりと目を覚ます。
水と緑に満ち生が溢れていた清浄の星は、機械・油・死に満ちていた。
星の惨状を嘆いた樹は、1日でそのすべてを洗い流した。ただ一人、星の観測者を残し、星の浄化を待って樹は再び深い眠りについた。
暑き浜辺に家一つ、風が抜けるそこには少女一人。海中の機械都市は気にも止めず、水平線の遥か向こうに望む巨大な木を眺める。少女を訪れる鯨と戯れながら、今日も明日もその次の日も、ただゆらゆらと水面に漂う。16歳で生が転じる、その日まで。
短編ファンタジー 鱒川十一 @masukawatoichi
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