第6話 地平線

 共同排出場に続く道の端には、崩れたビル

群が続いている。太陽が地平線に隠れようと

していた。

 風があると、色々な物音が風のなかに紛れ

てしまい、風は空の彼方に音を連れ去ってし

まうけれど、今日は風が無い。安心して音と

遊ぶことができるとカゲルは思った。

 キリコが鉛色の防護服を着て歩いていく。

 キリコの体の具合は良いとは言えない。

「ホルモン投与の副作用とドクは言っていた

わ。そのせいで多少発熱があるのは仕方がな

い。今日はね。サーフェスを歩いて地平線を

見たかった。あの、ギザギザの地平線に沈ん

でいく太陽をね」

 カゲルは何も言わず、キリコの後を付いて

いく。

 サーモグラフィで見たら、キリコは赤く染

まり、球のようになっているに違いない。

 カゲルは、キリコから眼を反らし、沈みか

けた太陽を見つめる。太陽がいつものように

あの地平線のギザギザした刃の向こうに消え

てしまえば、空はやがて水色の肌着を脱ぎ棄

てる。

「もうすぐ星屑が光り始める頃ね。星屑が流

れたら、星屑と話がしてみたい。今は薄くな

ってしまった空の色だけれど、夜の星は変わ

らない。地球の酸素が薄くなっても、星の瞬

きは変わらない。ガリレオ・ガリレイが望遠

鏡で眺めた空と、少しも変わらない」

 カゲルは頷いた。

 もうどれくらい共同排出場に、ヒカルゴミ

を捨て続けたのだろう。

 ヒカルゴミはエネルギーを持っている。そ

れは、眼には見えないエネルギーだけれど、

カゲルやキリコが生まれる前からそれは出続

けていて、これからも何万年も出続けていく。

今は決められた量を決められた場所に運び置

くだけだ。

 カゲルは思う。

 キリコのコーティンググラスの端に沈みか

けた太陽が消える。

 キリコは何だか笑っている。

「星屑はきっと流れるよ」

 音が無くても、褐色になってしまった地面

が、サーフェスが、受け止めてくれている気

がしていた。

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Y/Z KIKI-TA @KIKI-TA

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