第5話 シード
(ギリシア神話に登場したパンドーラーは、
開けてはいけないと言われた箱を、好奇心
にかられて開けてしまう。箱のなかから、
ありとあらゆる災いがこの世に解き放たれ
た。悲嘆、欠乏、犯罪。そして疫病)
(だが、すべての災いが箱から出ていってし
まった後に、箱の底にエルピスという文字
だけが残る。それは、予兆、期待。希望)
(それが、ホモ・サピエンスなのかも知れな
い)
(放射線エネルギー。過去の人類が開けてし
まったパンドラの箱。開けてしまった以上
付き合っていかなければならなくなった。
それが平和目的であろうと、戦争目的であ
ろうと。放射線エネルギーの宿命。付き合
いを止めるには、半減期という時間の流れ
に身を委ねるしかない)
(エネルギー保存の法則)
(エネルギー自体は無くせない。エネルギー
がかたちを変え、変化していくことを待つ
しかない)
(問題は、その時間が人間の寿命を遥かに超
えているということだ)
(ホモ・サピエンスは哺乳動物だ。しかも、
地球上の哺乳動物のなかでも養育期間が飛
び抜けて長い種だ。身体的に成熟していく
には、それ以上に脳が社会的に成熟するに
は、30年もの年月がかかる。幼児期に、
身体的なスキンシップを伴う、十分な愛情
をもって養育されなければ健全に成熟でき
ない)
(それは研究によって明らかになってきたこ
と)
(情動を持つ、極めてデリケートな種である
こと)
(ホモ・サピエンス純正種は、限られた数で
はあるが「シード」に保存されなければな
らない。サピエンス種の精神的な特徴であ
る「共感力」。地球生命体の進化の記録と
して残さなければならない)
(映像、音響としてのホモ・サピエンス種の
イメージ)
(無数の手が縦横斜めに
むすびつき離れていく
波のようなうねりのなかで
光の粒のような流れのなかで
色が赤からオレンジへ
紫から青へと変化して
やがて白に収斂されていく
熱くもなく冷たくもない
上も下も前後も方向がない
あらゆる方向から音が聞こえる
あらゆる方向へ音が消えていく
始まりもなく終わりもない)
(サピエンス種が獲得した「想像力」)
(それは「シード」の中核に保存しておかな
ければならない)
(放射線の安全性が保障されるようになるま
で。サーフェスに戻り、再び安全に居住で
きるようになるまで)
(あと何万年かかるのだろう)
(XZ種のプロジェクトで、ヒカルゴミの廃
棄が進んでいくとしても)
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