第4話 Y/Z2
予定の5分前にキリコはシールド前に現れ
た。ここで脳に埋め込んであるチップのID
番号をチエックしてセンターに入る。
今日はキリコの表情も明るい。薄いピンク
色の業務服にシールド前の可視光線が散乱し
てより明るく見えた。
カゲルにはアポイントが無いため、シール
ド前でキリコの帰りを待つことになる。キリ
コはカゲルと立ち話をした後、急ぎシールド
ゲートからセンター内に入って行った。
1時間30分後、ゲートからキリコが出て
くる。
「どうだった?」
キリコの顔を見ると同時に、カゲルは叫ん
でいた。
「詳しいことが分かったわ。ここじゃ何だか
ら、通路奥のスペースで話しましょう」
通路奥には、隊員用のポケットスペースが
確保されていて、簡単な飲食も可能だった。
「キリコは何を飲む?」
「視力回復ビタミン配合ソーダでいいわ」
「自分は免疫補助ホルモン飲料」
カウンターでカゲルがそれぞれのドリンク
を注文する。テーブルに並べる。
「疲れた?」
カゲルが質問する。
「時間はちょっと長かったけれど、担当ドク
は紳士的で、話し方も穏やかで、わたしとは
マッチングしていたと思う。おかげで今回の
プロジェクトの背景や目的も理解できた」
「よかった。じゃあ、分かる範囲で教えて」
「そうね。まず、この前の話と重なるけれど
XZ型の新ホモ種を造ることは決定みたい。
今のXX種XY種は、コントロール体ではあ
るけれど、低酸素環境への適応や放射線への
耐性という点で限界があり、生命時間も個体
別にコントロールしなくちゃならない。体へ
の負担が大きくて、劣化度も想定より高いら
しいの。そこで、人工交配に拠らないXZ種
という新しい種を組成して、クローン技術で
大量生産して、サーフェスでのヒカルゴミ廃
棄をより効率的に進めたいらしいの」
「背景はそうか、そういうことなんだ」
「なにせヒカルゴミは、過去の純正ホモ種が
制御出来ずに溜め続けたもの。彼らは一部を
地下に埋めたり、海洋に投棄したりしたけれ
ど、放射線自体は消えなかった。サーフェス
の放射線濃度は徐々に上昇し、染色体汚染に
極端に弱い彼らは、奇形や病気を怖れてどう
することも出来なかった」
「そうだね。結果的に彼ら自身では。地球上
の負の遺産だ」
「これから、わたしの体にホルモン投与を開
始して、X染色体を生成できるようになった
ら採取する。それと、センターが開発したZ
染色体を結合させて、新しいXZ種を誕生さ
せるらしいわ。わたし自身は、X染色体を生
成できるように組成されていないので、まず
は生成から」
「何故センターの純正種を使わないんだ?純
正種なら、もともとX染色体を持っているは
ずだろ」
「純正種は数も少なく、自然交配の保存体と
して、自然状態で取っておきたいらしいの」
カゲルはちょっと納得がいかない。
「ホルモン投与って、キリコ、大丈夫なんだ
ろうか」
「副作用はあるかも知れない。でも、事前の
動物実験やAIのシュミレーションでは大き
な影響データは出ていない。ドクの話では、
僅かな体温上昇とか、自律神経の不調による
目眩、食欲減退はあるかも知れないと。でも
センターでウオッチしていくとのこと」
「どのくらいの期間?」
「ホルモン投与は取りあえず3ケ月。そこで
X染色体が生成されれば採取かな」
「試験期間中は、サーフェスにも行けないし
ヒカルゴミ作業も中断だね」
「そうね。でも、調子が悪くなかったら付き
合うわ。カゲルもわたしとでないと調子狂っ
ちゃうでしょ」
「そうだね。うまくいくといい」
「有難う」
「でも、色々分かってよかった」
カゲルは少し落ち着きを取り戻した。
「XZ種を誕生させても、ヒカルゴミ作業に
うまく適応できるか、効率性は?など、色々
確認しなくてはいけないことも多いらしくて
まだ時間がかかるみたい。それに、実験体は
わたしだけじゃないから。それが救い」
テーブル周りの往来は、いつもと変わりな
く、慌ただしかった。予定のある人も無い人
も外目からは分からない。たくさんの靴音が
通路を流れていく。二人のそれぞれの容器に
あった液体はもう無くなり、透明な容器に刺
さったストローが、通路の幾つもの灯りを反
射させていた。
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