第3話 Y/Z1
キリコの体調があまり良くない。サーフェ
スに出たのは1週間ほど前で、その時は変わ
った様子はなかった。
「熱があるように見えるけど」
カゲルは心配する。
「話がセンターからあった」
「話って何の?」
「体を使う実験」
「体って誰の?」
「わたしの」
「キリコの?」
「そう」
キリコは下を向いていた。彼女の肩にかか
った髪が体を動かしたせいで少しずれる。
「わたしたち、対応体としてヒカルゴミを捨
てる任務に就いているでしょう。ガゲルも血
液検査で、免疫についてドクから診察を受け
たと思うけれど、その染色体への影響という
か、免疫機能の低下に関連してのことらしく
て」
「よく分からないな。自分にも関連している
のかな」
キリコは少し頭を傾けるようにして話し始
めた。
「んん。簡単に言うと、もっと免疫機能の強
い生命体を量産したいらしいの。性染色体っ
て、XXが雌で、XYが雄でしょ。その中間
の種、雌でも雄でもない、免疫機能の強いX
Z種という生命体を造って、そのクローンを
安定的に量産したいらしい。現在の、そう、
わたしやカゲルのような、放射線耐性のある
XX種XY種では、廃棄業務に就く日数も限
られるし、定期的に健診も受けなくてはなら
ない。場合によっては、設定された生命時間
の修正もある。不安定ということらしいのね。
新しいXZ種なら、人工交配の必要もないし
細胞から細胞へクローン培養して量産もでき
る。免疫機能もコントロールできる」
「それとキリコと、どう繋がるの?」
「結局、わたしもカゲルもコントロール体で
しょ。X染色体と「シード」が開発したZ染
色体を繋げたいらしい」
「それでより強い、新しい種を造る?」
「そうね」
カゲルはキリコをじっと見つめていた。
「わたしの体から、X染色体を採取したいっ
て」
「キリコだけなのか?」
「わたしの他にも、複数の実験体X種はリス
トアップされているらしい」
「何故キリコが選ばれたんだ?」
「詳しくは分からない。恐らくはヒカルゴミ
廃棄業務の経験と実績、それに免疫機能への
影響データ分析からだと思う」
「X染色体の採取ってどんなことをするんだ
?」
「詳しくは分からないわ」
「そうか。センターにはアポ入れてある?」
「MONTH3DAY23の10時」
「その日は何も入っていない。一緒に行って
もいい?センターの中には入れないけど、シ
ールドの前までなら」
「有難う。じゃあ、シールド前で」
キリコの表情は話しているうちに少しずつ
明るくなった。頬にも赤みが差してきたよう
に思える。
センターからの連絡はいつも突然にやって
くる。そして、その判断も、カゲル、キリコ
のようなコントロール体は、全て自分の判断
で済ませなければならない。今日みたいに、
僅かでも相談してくれることは、カゲルには
嬉しいことだった。
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