寿命が分かる町
五味箱
第1話
エンジンの音を響かせながら、あまり舗装されていない道を走っていく。
そろそろ、食料などが不足してきたから近くに町がないかと考えていると小高い丘に続く道に出る。
丘の上から村か町がないか見てみるかと思い、少し速度を上げる。
丘の上に到着し、辺りを見回してみると前方に塀で囲まれた町が見えた。今日は野宿しないで済むなと内心思いつつ移動を開始する。
太陽がちょうど真上にあるころに町には着いた。
速度を落としながら門のほうに近づいていくと門衛らしき人がこちらに近づいてきた。
「旅のお方ですか?」
「ええ、そうです。宿と食料の補給で立ち寄らせてもらいたいのですが」
「そうでしたか、旅人が来るのは久しぶりですので。どうぞこちらへ」
門衛の人に案内され、乗り物を停めているとどこから来たのかと聞かれる。
「この町よりも、もっと東のほうから来ました。長旅だったのでこの町で補給ができてよかったです。」
そう答えると門衛の人は急に憐れむような目つきになった後
「この町はとても安全で住みやすい町なので、存分に休んで行ってください」
そう答え、彼は門衛の仕事へと帰っていった。
町はとても清潔で、門衛の人が言っていた通りここは良い町なのかもしれない。まずは、旅で手に入れた手持ちの物品を売ってお金を作らないと手持ちが心もとない。通りにいた町の人にこの町の勘定屋の場所を聞き出す。
大通りから少し外れた場所に目的の勘定屋はあった。
店に入ると白いひげを生やした老人がカウンターに座って本を読んでいた。
「すいません、品物を買い取ってもらいたいんですけど」
僕が声をかけると、老人は僕を一瞥した後、本を閉じた。
「品物はこの上に置いてくれ、それよりもお前さん見ない顔だな、旅人か?」
「はい、ここよりも遠く東のほうから来ました」
「なるほどな、わざわざ外の危険な世界を旅するとは物好きなもんだ」
ヒッヒッヒと笑いながら老人は僕に言う。
僕は品物を置きながら苦笑いを返すしかない。
「ここはいい町だろう?」
「そうですね、町はきれいで治安も悪くなさそうです。」
「そりゃそうさ、なんせここは自分の寿命が分かる町だからな、馬鹿な事を起こして自分の寿命を減らしたくないのさ」
また、ヒッヒッヒと笑いながら老人は検品を始める。
「寿命が分かる町?」
「あぁそうさ、この町の住民は自分の寿命がわかるようになってるのさ」
ほれ、と言いながら老人は懐から長方形のプレートを取り出す。
「あまり他人には見せないもんだが、お前さんは旅人で明日には死んじまうかもしれない身の上だしな、わしの寿命は、ほれここに書いてあるだろう」
そういった老人はプレートの一部を指しながら言った。確かにそこには、この老人の寿命と思わしき年月日が書かれていた。
「寿命は、健康的な食事や習慣を続けて伸ばすこともできるでな、そのおかげかこの町の人間はみな寿命が減りそうなことはしないんじゃよ。孫もわしの寿命が長いことを喜んでおるんよ。ほれ、これで検品は終わりじゃ。もう品物がなければこの値段でどうじゃ?」
僕は提示された金額を聞いてかなり良い値段で買い取ってくれるんだなと思っていた。
驚いていたのが顔に出ていたのか老人は笑いながら
「この、薬草は体に良いとされるが外に取りにいかなければ採取できない。この町では価値が高い薬草じゃ」
「そうだったんですか、ではこの金額でお願いします」
僕はお金を受け取りながら、老人に飯屋の場所を聞くことにした。老人は少し考えた後
「あそこがいいじゃろう、この町でも人気の店じゃ。場所はこの店を出て...」
老人からこの町のお勧めの飯屋を聞いた後、僕は勘定屋を後にした。
自分の寿命が分かるとはなんとも不思議な町だ、そんなことを思いながらお勧めされた店に足を運ぶ。
お店に着いた僕は看板を目にして少し笑ってしまう、いかにも健康や長寿そうなお店の名前だったからだ。
お店に入ると、お昼の時間は少し過ぎてることもあってか客もそこそこといった混雑具合だった。入口の近くに座っていたお客さんが僕を見てくるが、旅人は珍しいからだろう。ほどなくして店員が空いてる席へ誘導してくれた。
「ご注文が決まったら呼んでください」
と、店員さんは言ってくれたが正直この町の食べ物はわからないので、この店のお勧めでお願いしますと返しておいた。
料理を待つ間、ちらりとあたりを見回してみると少しおかしなことに気づく
昼の込んでいる時間ほどではないものの、お客さんも適度にいるのだが会話があまり聞こえてこない。なんでだろうと疑問に思っているうちに料理が運ばれてきた。
「お待たせしました」
店員さんが料理を説明してくれているが、聞いたこともない料理名。
しかし、目の前に置かれた料理は先ほど店内を見たときに大半の人が食べていたものだった。他の人も食べているし、このお店のお勧めなんだから大丈夫だろうと思い一口食べてみる。
これは...
控えめに言っても美味しいとは言えない...
他のお客さんはこれを食べていたのか?
本当にこれはおすすめの料理なのか?など
色々考えていると
「お兄ちゃんどこか痛いの?苦くてもちゃんと食べないと長生きできないよ?」
隣の席の女の子が僕に話しかけてくる。
「お兄ちゃん旅人さんでしょ?ママが言ってたの町の外は危険で長生きできないんだって、ほら、これみて」
突然話しかけられて僕が目を白黒させていると
その女の子は長方形のプレートを取り出して僕に見せてくる。
「私の寿命、ここの料理を食べたりママの言うことをよく聞いてるからこんなに寿命が長いの」
たしかに、女の子が見せてくれているプレートの寿命と思わしてき年月日はこの世界での平均寿命を上回っている。
「こら、食事中に話しかけないの」
「はーい」
「あんまり食事中の人に話しかけちゃだめよ、よく噛んで食べないと体に悪いわ」
そういうと親子は席に戻り、また黙々と料理を食べ始めた。僕は目の前の料理を無理やり流し込むと会計を済ませお店を出た。
寿命の為に、皆美味しくもない料理を食べているなんて...
気を取り直して、今日泊まる宿を探すことにした。通りにある宿を見つけて入ってみると、中にいたのは何とも人の良さそうな顔をした店主だった。一泊できる宿を探していていることを伝え、部屋に空きがあるか聞いてみると、この街に旅人が来るのは珍しことで部屋の空きは沢山あると笑って答えてくれた。値段も良心的で1泊朝食付だと言うのでこの宿に宿泊することにした。
部屋に案内してもらい、荷物を置くと旅に必要なものを買いに外に出かける。行く先々の店で寿命に良い物を勧められはしたが、買う気にはならず必要なものを購入して宿に戻るころには、すっかり日が落ちていた。
宿の中に入ると、店主さんが慌てた様子で僕に話しかけてきた
「旅人さん、よかった戻ってきて、すいません言い忘れていました。この町は早寝早起きが基本なんですよ。なので、もう少しで戸締りの時間でした。」
早くないですか、と口から出かかったが
ここはそういう町なんだったと思い出して、何とか飲み込んだ。
部屋に戻ると明日の出発準備を済まし、日記を書いていく。
そうこうしているうちに、窓の外から見える町の明かりが消えていくのがわかる。今日は僕も早めに休もう、そう思いベッドに入った。
翌朝、昨日は早めに寝たこともあってか普段よりも早く目が覚めた。支度をしながら窓の外を見ると、大人から子供までみんな体操やジョギングをしていた。
部屋を出て、朝食を食べに隣接している食堂に向かう。いろいろ料理をお勧めされたが、食べる気にはなれずパンだけをもらって食べることにした。
食堂から部屋に戻って出発の準備をして宿を出る。
門に向かって歩いている途中、昨日立ち寄った勘定屋の老人が運動をしていた。
「おぉ、お前さんは昨日の」
「おはようございます、朝から元気ですね」
「あぁそうさ、わしはこれを何年も続けておるから健康で寿命も長いんじゃ」
老人はヒッヒッヒと笑いながら、僕に話しかけてくる。
「ところで旅の人、お前さん旅の途中で寿命が延びるような食べ物や健康法を聞いたことはないかの?この町の人はそういうに目がないでの」
「いえ、そういうのは聞いたことがないですね」
「そうかぃ、まぁまたこの町に立ち寄ることがあればそういう情報をもらえると嬉しいの」
僕は適当に相槌をうって、老人と別れる。
駐車場に行き、燃料を補給した後荷物を乗せていく。
そろそろ町を出ようと思い、正門まで行くと昨日案内してくれた門衛がこちらに気づいたようだった。
「もう行かれるのですか?」
「はい、昨日はありがとうございました」
「いえいえ、どうでしたか?この町はいい町だったでしょう?あ、そうだ、どうです?この町に住んでみては?危険な旅なんかするよりもずっと安全ですし、長生きできますよ」
門衛さんに悪気はなく、たぶん本心でそう言ってくれているのだろう。
「そうですね、考えておきます。僕にも旅の目的があるので」
「そうかい?それは残念だね、目的があるなら無理に引き止めるのも悪いね。旅の道中お気をつけて」
僕は門衛に手を上げて別れを告げると、エンジンをかけて出発する。
「寿命が分かる町か...」
自分の寿命を気にしながら生活するなんて、僕にはそれが寿命が減りそうだよ。
寿命が分かる町 五味箱 @gmbk_ft
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