9話 暴走。

 ――あれから、休み時間中には、俺の左からとてつもない視線を感じていた。


 「はい皆さん、ホームルームを始めますので、席に着いてください。――明日からゴールデンウィークです、が気を抜かずに高校生らしい生活を送ってください。では、これで今日のホームルームを終わります。皆さん、気を付けて下校してください」


 そして、今日の学校の授業は全て終了した。


 「よし、竜一。早く帰ろう。――ああ、そうだ。めぐみちゃんも、一緒に帰れるといいのだが……」


 「そうだな、めぐみに連絡でもしてみるか……」


 「ちょっと待って、まだあたし鞠弥のこと何も聞いてないんだけど?」


 琴音は、とても怒っていた。


 「鞠弥は、俺の……。そう、遠い親戚なんだ!俺もこないだ父さんから聞かされて、びっくりしたんだよ」


 俺の言い訳はとても苦しかった、が。


 「ふーん。なーんだ、親戚か……。そうならそうと、もっと早く言ってよ。……鞠弥、ごめんね。……あと、これからよろしくね」


 琴音は、俺の嘘を信じた。

 俺は、罪悪感を覚えた。

 鞠弥は、不思議な顔をしていた。


 「うん、よろしく頼む……」


 「それじゃあ、帰ろうっか――」


 琴音がそう言った瞬間、俺のスマホの着信音がなった。


 『お兄ちゃん、今どこ?』


 「ああ、ごめんめぐみ。今、教室にいる」


 『わかった、今からそっちに行くから。――――ピッ』


 電話が切れると、教室のドアが開いた。


 「え、めぐみ?なんで教室にって、まさかお前――」


 「流石お兄ちゃん。教室の前で、ずっとスタンバってました。……なんてね」


 めぐみは、どこかで聞いたことがあるようなセリフを言うと、かわいく舌を出した。


 「おい、そのセリフは大丈夫なのか?まあでも、別にいいか。――それじゃあ、めぐみも来たことだし、みんなで帰ろうぜ」


 そして俺たちは、学校を後にする。


 「そういえば、明日からゴールデンウィークよね?」


 「なんだよ、急に……。なんか、嫌な予感がする……」


 「―――それってなんか、酷くない?」


 「すまん。―――それで、明日からゴールデンウィークだからなんだって言うんだ?」


 「竜一、あんたの家に泊まってもいい?」


 なんとなく、琴音が言い出すことはわかっていた。


 「え、ええっと……」


 「私は別に構わないよ、鞠弥ちゃんは?」


 「私も構わない……。むしろ、来てほしいくらいだ」


 あの鞠弥が琴音に来てほしいだなんて、何があったのだろう。


 「決まったわね。3対1で、竜一の負け……」


 「ちょっと待て、別に俺は反対していない。ただ――」


 「ただ何よ、言ってみなさいよ」


 「俺はただ、恥ずかしいだけなんだよ!」


 今、俺の顔は真っ赤に染まっているだろう。


 「なんだ、それだけか。私はてっきり、お宝があるから困るのかと思った」


 「なんでそうなるんだよ!あと、残念ながら俺は持っていないからな」


 俺と琴音がそんな話をしていると、後ろの方では別の意味で盛り上がっていた。


 「めぐみちゃん。お宝とは、なんのことだ?」


 「実は私にもわからなくて……。もしかして、お兄ちゃんはこっそり宝石とか持っていたりして……」


 「なるほど、それは確かにお宝だな……」


 この2人は、男子のお宝については知らないみたいだったが、琴音は違った。


 「えー、持っていないの?もう高校生だよ?1冊も持っていないの?」


 「当たり前だ……。あと、高校生だから持っているって、偏見だからな……」


 「……なんか、ごめんなさい」


 急に琴音が落ち込んだ。そして、落ち込んだ琴音を見て、めぐみたちがやって来た。


 「お兄ちゃん、琴音ちゃんをいじめたらダメだよ。琴音ちゃん大丈夫?」


 「竜一、いじめるのはいけないことだ。そんなこと、竜一にならわかるだろ?」


 「なんか、俺。悪い奴になっていないか?」


 俺がそう言うと、めぐみと鞠弥。そして、なぜか琴音が首をかしげて――――


 「「違うの?」」


 3人は、声を揃えてそう言った。


 「お前らなぁ……。まあ、なんでもいいよ。それより琴音、来るなら歓迎するからな」


 「え?あ、ありがとう、竜一……」


 なぜか、言った本人が恥ずかしそうにする。


 (なぜこいつは、顔を赤くしていんだ?お前が言ったんだろ?――まあ、かわいいから別にいいんだけどさ)


 そんなこんなで、俺たちは分かれ道まで来ていた。


 「それじゃあ、琴音。俺たちはこっちだから、また明日な……」


 「琴音ちゃんバイバーイ」


 「それじゃあ、琴音ちゃん。また明日……」


 「何言っているの?今から、泊まりに行くに決まっているでしょ?」


 俺は、琴音が何を言っているのか、理解できなかった。


 「どういうことだ?お前、明日からじゃないのか?」


 「誰も、明日から泊まるなんて言っていないよ?あたしは、明日からゴールデンウィークよね?って、言っただけだよ?」


 「そうか……。まあ、それならみんなで帰るか」


 俺は、未だに混乱していた。それは、めぐみも変わらなかったらしい。


 「ええっと。それじゃあ、晩ご飯は張り切って作らないと……」


 「確かにそうだな、琴音ちゃんは、明日から泊まるとは一言も言っていなかった。……すまない」


 鞠弥は、意外と適応力があるみたいだった。


 「大丈夫よ、気にしないで」


 「そうか、わかった……」


 俺とめぐみは、混乱したまま家に帰った。


 そして、家に到着してめぐみは、速攻でキッチンに向かう。


 「そうだ琴音、部屋のことなんだけど……」


 「わかっているわよ、めぐみちゃんの部屋で寝ればいいんでしょう」


 「ああ、ありがとう。あとついでに、鞠弥のことも頼む」


 俺は、家に戻る前に琴音に頼んでおいたのだ。


 「はいはい、わかっていますよ……」


 「すまないな、全部お前に任せちゃって……」


 「いいのよ、これくらい。――まあ後で、あたしのお願いを聞いてもらうから」


 俺には、そのセリフが脅しに聞こえた。


 「そうだ竜一、後で一緒にお風呂入らない?」


 「ない!」


 俺は、琴音の提案を速攻で断った。――が、琴音はそれで諦めるような奴じゃないことを、俺は知っている。


 「流石竜一、そう言うと思った……」


 そして、あれから20分後。


 「皆さーん。晩ご飯ができましたよー」


 めぐみの声に、俺たちはリビングに集まる。


 「今日の晩ご飯は、中華料理にしてみました!」


 「おお、流石めぐみだな。どれも美味そうにできている」


 「ホントね。なんて言うのかしら……。そう、これは芸術よ!」


 「君たち、早くしないとご飯が冷めてしまうぞ?」


 鞠弥に言われて、俺と琴音は急いで、椅子に座る。


 「よし、それじゃあみんな食べようか。いただきます。――ぱく」


 俺は麻婆豆腐まーぼーどうふを、琴音は酢豚すぶたを、そして鞠弥は、回鍋肉ほいこーろーを一口食べる。


 「「ああ、美味い……」」


 俺たちの声は、完全にシンクロした。


 「喜んでもらえてよかったぁ。じゃあ私も、いただきます。――ぱく」


 そして、晩ご飯を食べ終えた俺たちは、お風呂に入る。順番は、俺→琴音→鞠弥→めぐみの順である。そして俺は、この順番に悪意を感じていた。


 「……ふう、いい湯だな。――って、別に温泉じゃないんだからよ。ははは……」


 なんだかんだ言って俺は、この時間に寂しさを感じていた。しかし、その感覚は一瞬で消滅していった。なぜなら――――


 「竜一、私が背中を流そう……」


 「はあ!?ま、鞠弥!お前、なんてカッコしているんだ……」


 湯気であんまりよく見えないが、鞠弥がタオルを巻いていないことだけは、わかった。


 「……ん?男子高校生の背中を流す時は、おっp――んんん」


 「ま・り・や?あなたは何をしているのかしら?」


 鞠弥が喋れなくなったのは、怖い顔をした琴音が鞠弥の口を塞いだからだった。


 「ありがとう、琴音。助かったよ、ってお前もなのか!?」


 「は?よく見なさいよ。あたしは鞠弥と違って、ちゃんとタオル巻いているから。……ほら。――あ」


 琴音が、体に巻いてあるタオルを俺に見せつけた瞬間、そのタオルは落ちていった。


 (これが、お約束ってやつか……。今から俺は殴られるのか……。って、あれ?)


 「おかしい、殴られない……。あのぉ、琴音さん?」


 俺がそう言って目を開けた。すると――


 「へっへっへ、残念でした。あたしは馬鹿じゃないので、体操服を着ていたのでした」


 男子高校生の純粋な心が、弄ばれた気がした。――が。


 「そっか、ならよかった。琴音、鞠弥のことは任せた」


 俺はそう言って、お風呂の時間を楽しんだ。


 ――そして、琴音がお風呂に入っている中、今日のことで疲れた俺は他の人よりも先にベッドに入り、すぐ夢の世界に誘われた。

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俺は『恋』と出会いの物語に感謝する。 抹茶 @kurumisamabannzai

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