10話.[こちらの意味で]

「あ、あのっ」


 お、このパターンはと振り向いたときのこと。

 彼はズボンをぎゅっと握り、そして目をくわっと開いてから叫んだ。


「お兄さんをください! え、あ、ま、まちがえたっ、えと……美弥ちゃんをください!」


 やべえ、眩しい。

 つか、そういうことをどこから仕入れてくるんだろうか?

 友達の姉とかから? なんか友達の姉って魅力的に見えるよな、なんて。

 いかんいかん、兄兼親として言えることはひとるだ。


「それは美弥に言わないとな」

「で、ですよねっ、ははは……」


 そもそも、よく俺に話しかけられるな。

 怖いとかは言われたことはないが、自分より三十センチ以上大きい人間にさ。

 美弥のことが好きであっても、その家族と話すのは緊張するだろうに。


「お兄ちゃんっ、意地悪しないでっ」

「してないぞ、ほら、美弥も来たことだからさ」


 大丈夫、俺と桃菜みたいなものだ。

 どうなるのかはもう決まっている。

 問題があるとすればその期間に勇気を出して踏み出せるか、ということだ。

 結城という名前だろう? 勇気ではないが頑張らないとな。


「み、みみ、美弥ちゃん!」

「う、うん、どうしたの?」

「美弥ちゃんのことが好きだっ」

「ばかっ、なんでここで言うのっ」

「うぇ!? だ、だって、お兄さんが美弥ちゃんに言えって……」

「お兄ちゃんのばかっ、じゃあね!」


 えぇ、なんで俺が悪いみたいになっているんだ。

 なんか理不尽すぎてあれだったから桃菜に甘えに行くことにした。


「ふぇ? みゃちゃん――ん、美弥ちゃんが怖い?」

「ああ、最近は真衣に似てきている気がしてさ」


 いいよな、桃菜なら菓子を食べるだけでどこかにやってしまいそうだし。

 そうだ、真衣にではなく桃菜のところに預ければいいんじゃないか!?

 そう提案してみたのだが、


「……美弥ちゃんが来てくれても嬉しいけど、どうせなら辰也くんだけが来てくれる方が嬉しいかなー」


 なんてこっ恥ずかしいことを言われてしまい黙ることしかできなかった。

 俺にはこちらの意味でも大変な生活が始まったようが気がしたのだった。

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42作品目 Nora @rianora_

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