09話.[別にいいけどな]
「お馬鹿さん――あ、辰也さん、だったわよね、ごめんなさい」
「なんでいきなり罵倒されているんだ俺は……」
バレンタインデー当日に呼び出されたから彼女の家の前まで行ったらいきなりこれだった。
やっぱり心配する必要はねえよ桃菜。
真衣が俺のことを好きになることなんて隕石が降ってくる可能性よりも低いんだからな! と内で叫ぶ。
「はい、どうぞ」
「ありがとな」
手作りの物なんて初めて貰った。
ご飯を作るのでさえ渋る彼女のことだから言うだけで自作しないと思っていた。
また、仮に作っても俺にはくれないと思っていたのだが、そうではなかったみたいだ。
普通に嬉しい、真衣も友達のひとりだからな。
「唐突だけど、桃菜とはどうなの?」
「うーん、あんまり変わらないんだよな」
「そうよね。元々、あなた達の距離感はそのような感じだったもの」
「だからって変な遠慮とかするなよ?」
贅沢だが、だからといって片方と接することができなくなるのは嫌だった。
誰だってそうだろう、彼女ができたからって他の人間との交流を無くす人間なんていない。
そんな極端なことができる人間がいるとすればそう命令されているだけだ。
絶対に自分の意思じゃないから安心していい。
「しないわよ、いまでも美弥ちゃんを家に連れ戻そうと計画を練っているのだから、そういうときに家族であるあなたと仲よくしていた方が上手くいくかもしれないじゃない?」
「本人が泊まりたいって言うなら別にいいけどな」
「それに……」
彼女は珍しくそこで言い淀んだ。
いつでもはっきりと言う人間だから珍しい――つか、最近の彼女は本当にレアなところを見せてくれるものだ。
「……私には辰也と桃菜しか友達がいないのよ、自ら変な遠慮をしたらひとりになってしまうじゃない、ひとりだと寂しいじゃない」
「はは、意外と可愛いところもあるんだな」
「ふふ、あなたも同じでしょう?」
「そうだな、俺らは同じだ」
あ、スマホを確認してみたら『早く帰ってきて~』と甘えん坊からのメッセージがきていた。
「これ、ありがとな、大事に食べさせてもらうわ」
「ええ」
「それじゃあな」
「ええ、また月曜日に」
怒られても嫌だからさっさと帰ろう。
もちろん、自宅に帰ってから真衣作の物を食べさせてもらった。
桃菜からのは……それはもう無理やり口に詰め込められたからなかったが。
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