08話.[予鈴が鳴ったな]
「たっちゃんっ」
「近いぞ」
教室でも遠慮しなくなっているからその度にざわつく。
一応、この教室での俺の立ち位置は目立ちはしないが空気ほどではないというぐらいなはずなので、まあこういう風になるわけだ。
そもそも、「大田さんとお話しできるの羨ましいなー」なんて頻繁に口にするクラスメイトがいる中で俺は何故か話せるわけだし、そりゃこうなるのもおかしくはないわけで。
「にへへ、捕まえたー」
「逃げてないんだからそりゃそうなるだろ」
逆にこちらから掴んでみたら「おお!」と周りが盛り上がった。
先程までこちらの手を掴んでいたくせに顔を赤くしているのが桃菜という人間。
押すことも中途半端で、基本的に押され気味な人間だった。
「桃菜さんはいつも通りだね」
「あれ、珍しいな、こっちに来るのなんて」
「僕らは別になにかがあったわけじゃないからね、それに桃菜さんからは柏崎君のことをよく聞いていたから」
嫌な予感がするから詳しく聞くのはやめておこう。
とりあえず真っ赤なままで固まっている桃菜を連れて廊下に出た。
「いちいち固まるなよ」
「だって……」
「じゃ、学校ではやめろ、ふたりきりになったらいくらでもしていいから」
「……真衣ちゃんじゃなくていいの?」
「真衣はいいんだよ」
頭に手を置いて不安にならなくていいと言って。
「たっちゃん……」
「そこでならいいぞ」
女子としては言ってもらいたいものだよな。
男としてはこのまま勝手に進展させるのが一番だが……。
「桃菜、好きだぞ」
「え」
「なんだかんだ言っても桃菜が付き合い出したと聞いてから微妙だったわけだしな、やっぱり桃菜が側で楽しそうにしてくれているのが一番なんだよ、受け入れてくれるか?」
やっぱり異性から言わせるのは違うと俺でも分かる。
おまけにこちらが選ぶ側になるのはそもそもおかしいのだ。
俺は不安に押しつぶされそうになる側でいい。
まあ、今回のこれに関しては全くそんなことはないわけだが。
「はい……」
「はは、なんで敬語なんだよ」
「うぅっ」
「悪い悪い、あともうちょっと時間があるからこのままでいいからさ」
こっちに抱きついてきているからこちらは頭を撫でることだけに専念。
まさか嘘をついているなんて思わなかったけどな。
進んで相手に迷惑をかけようとする人間じゃないから。
彼女持ちの人間を計画に巻き込むなんて思わなかった。
俺がひとり寂しくて、唯一来てくれる真衣に揺れていたらどういう風に対応したんだろうなと考えるときもある。
「好き……」
「よかった」
好きじゃないのに受け入れたりなんかしたら怒る。
何度も言うが縛りたいわけじゃないからな。
だからこれからも他を優先してくれればいいし、なんならそっちばかりでも構わない。
ただ最後にはちゃんと帰ってきてくれればそれで。
「……真衣ちゃんと仲よくしているところを見ると胸がきゅっと痛くなっていたんだよ? だから前も言ったけど髪を伸ばしたりして意識を向けてほしいなって思ってさ」
「どちらかと言えば桃菜とばかりいただろ?」
「そうだけどさ、たっちゃんは――ううん、辰也くんは真衣ちゃんとお喋りするとき凄く楽しそうだから」
「あー、まあ自由に言える相手ではあるからな」
感情的にならず流してくれるところが真衣のよさだと思う。
とはいえ、桃菜みたいにすぐに感情的になってしまうのもそれはそれでちゃんとこっちに意識を向けてくれているわけだから悪いことではない。
「予鈴が鳴ったな」
「……離れたくない」
「美弥みたいだな、放課後になったらまたこうして過ごせばいいだろ」
持ち上げて無理やり立たせる。
どこか納得のいっていない様子だったが授業に出なければならないのだからしょうがない。
そのかわり、後でいくらでも付き合ってやると言ったら不満そうな表情ではあったものの「約束だよ」と言ってくれて動き始めてくれた。
破るわけがない、そんなことをする必要がないんだからな。
ただまあ、渋々といった感じで歩いている彼女を見て、これから結構大変な生活になるだろうなって中途半端な気分になったのだった。
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