西舌
文豪あくるぜ
第1話 エントロピー
君たちは想像したことがあるだろうか、誰もが自分を恨む世界を。
ここは森。鳥たちは自らの腐敗にそれぞれが思う最高の歌声で祝福を挙げ、川は流動学のドクトリンに猫を嫌う旨の抗議をしている。
私はまだ葡萄の香りが残るちょっとした高まりの上で、前歯の裏の歯垢を下で撫でながら静養をとっていた。あぁ、なんて心地がいいのだろうか。このまま脳活動を休止させてしまったほうが寿命を保持するには好影響なのではないか。睡魔と鎬を削り勝利を勝ち取ることから生じる利益の少なさに落胆してしまうことは避けるべきである。判断を下した私は瞼を落とし、眠りについた。
ここは森。鳥たちは少し悲しげに仲間の毛繕いをする猿と慰めあい、川はガラスとの親和性を由として金属の摩擦を利用した人類を歓迎する。
私はかなりの時間動いていなかったようで、周囲には無数の胡椒が振りかけられていた。実家の母親に迷惑を被ってしまったようで、どうも不憫に思えて近頃仕送りをしてやることを己に契った。二極性でしかものを考えられない一般人どもに私の崇高な思想を理解し得ることがあるだろうか。しばしばヒトの脳の小ささには驚かせられるものだ。
ここは森。鳥たちはもうどこかへ飛び去ってしまい、川は枯れ果てて相対的な低さでしかその存在を思い出すことができなくなってしまった。
木々の間から神崎 本棟 辰彦がひょっこり顔を出して、私に春の始まりを告げようとこう言った。
「ついていけないよ。ついていけない。あいつですらついていけてないのにさ。」
「そんなにかい?君は自分に蓋をしているように感じる。」
「うるさいなぁ。」
「そうか。みんな僕がそんなに恨めしいか。」
とっさに馬鹿馬鹿しくなって盲腸に土を詰め、世界から離れた。
西舌 文豪あくるぜ @AKRZOE
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。西舌の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます