中山伸久 1
父の書く小説が嫌いだ。イヤミスの王だか何だか知らないが、何であんな後味の悪い小説なんか書いているのだろう。小説はもっと人に希望を与えるような、落ち込んだ人に活力を与えるような作品にするべきだ。なのに『中山祐介の子』というだけでイヤミスを書くと思われ、実際に自分の書いた小説を見せると、意外だという反応をされるのが一番気に食わない。
俺がそのことを意識しだした原因は、昨年の
和雄とは家はそれ程近くはないものの、生まれた日と生まれた病院が同じという妙な縁があった。そのため、最初は興味を持ち、高校入学時、同じクラスになった時に誕生日が同じという理由で話しかけた。和雄は最初の頃は自分に警戒していたものの、話していくうちに打ち解けた。
数ヶ月経つと俺と和雄とは親友の様な仲になっていた。お互いの趣味が読書だったため、話の内容は本関係が中心だった。和雄は父のファンだったらしく、俺が中山祐介の息子だと告白したときは心底驚いていた。
俺は丁度その時、新作の小説を書いていた。和雄にそのことを告げると、和雄は、完成したら是非読みたいと言ってくれた。
作品が完成した日、俺は和雄を自宅に招待した。和雄を部屋に上げ、原稿を渡した。和雄は原稿を受け取ったあと、沢山の本に圧倒されるようにぐるりと俺の部屋を見回していた。
「そんな珍しいか?」
「いや、珍しいというよりもやっぱり凄い量の本があるなって思って」
「これくらい普通じゃないか?」
俺の部屋の本はちょうど大きい本棚二個分くらいの量だったので、本好きの中でも平均的だと思っていた。
「そっか、普通こんくらいか」
そう独りごちた和雄にある疑問を抱き、俺はすかさず和雄に質問した。
「見るといつも本を読んでいるから、お前もこのくらい持ってないの?」
「いや、僕はいつも図書館の本を読んでいるから」
そんな会話をしてくうちに、俺は和雄がどんな環境でいつも本を読んでいるのか気になった。
「いつかお前の家にお邪魔したいな」
俺は何気なく言ってみたが、突然和雄の表情が暗く、深刻そうな顔に変わったので驚いた。
「家は……散らかっているから」
和雄が険しい顔のまま呟いた。
「女子かよ」と俺はおどけてみたが、和雄の顔が晴れることは無かった。
「まあ、いいけど」
途端に部屋全体の空気が重くなり、沈黙がやけに怖かった。
「じゃあ、帰るね。お邪魔しました」
和雄はそう言って逃げるように部屋を出て行ってしまった。
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