藤宮和雄 1

 外に出ても家にいても気が休まることなんてなかった。高校に行けば酷いいじめが待っており、家に帰れば犬以下の扱いを受ける。この状況を変えようという気はとっくに消え失せている。熱血教師のいじめ撲滅や、虐待保護施設へ通告してくれる人もいなかった。味方など誰もいない。ドラマみたいな可哀そうな子供の救済などない。

 学校への足取りが重い。昨日は服を泥水で汚され、一昨日は教室に入るだけなのに入場料と言って財布の中身を全て持ってかれた。今日は何をされるのだろうか、それを考えただけで憂鬱な気分になる。

学校に着くと下駄箱に靴はなく、教室のゴミ箱に他のゴミと一緒に捨てられてあった。朝からゴミ箱を漁る最悪の日だ。その姿を笑われ背中に物を投げられる。こんな毎日を繰り返していると、自分と正反対の立場の人間と入れ替わってみたくなる。そんな時いつも真っ先に思い浮かぶ人物は、このクラスの中心にいる中山伸久なかやまのぶひさ。「イヤミスの王」と呼ばれている中山祐介を父に持つ彼の家庭環境はとても恵まれていた。クラスの中心的存在でもあり彼自身、十七歳という若さで小説家としてデビューしていた。

「みんなちょっと止めてあげて」

伸久はそう言うとゆっくり僕の方に歩み寄ってきた。

「ねえ、何で皆お前に不満を表しているか分かる?」

伸久は倒れている僕と目線が合うように屈みながら、説教をするように話しかけてきた。

「お前のそのオーラだよ。まるで『この世には希望なんかありません』というかのようにお前の周りに黒いオーラが渦巻いているんだ。確かに俺はお前の家庭環境を知っている。毎日とても酷い虐待を受けていることについては同情するよ。でもさ、お前はこの状況を変えようとしていない。お前はこの状況でも何かできることがあるはずだ。けどお前は何もしていない。それが皆の不満になっているのさ。俺は他の誰でもない、お前のために言っているんだよ」

 反吐が出るような戯言を言った後、伸久は得意げな顔をして自分の席に戻っていった。彼が僕を貶して悦に浸る度、僕の心はゆっくりと腐っていく。ほかのクラスメイトの伸久に対する称賛も耳障りだった。

 僕が親から愛されていないということがクラスの中に知れ渡った原因は、中山伸久にあった。そして徐々に僕に対するいじめが始まった。

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