お義母さんの最後

@hujiko86

第1話お義母さん



 「もう、ダメなのかな。」


 旦那が、お義母さんのベットの脇に座り呟いた。


 お義母さんは、24才の時に旦那様(旦那のお父さん)を亡くし、一人で旦那を育て上げた。


 お義母さんで、お義父さんでもあるお義母さん。


 「ちょっと、ついててくれ。」


 旦那が、鼻をぐすぐすしながら、廊下へ出ていく。


 少ししたらお義母さんが、ぶつぶつと何か言っているのに気がついた。


 「お義母さん?なに?」


 口元に耳を近づける。



 「約束がちげーだろ。」


 「えっ?」


 顔を上げ、お義母さんの顔を見る。


 いきなり目を開け、大きな声で言った。


 「約束がちげーだろがぁ!」


 ビックリして体を引いた。


 お義母さんが、起き上がり立ち上がって仁王立ちした。


 どこにそんな力が、残っていたのか。


 少し上の辺りを見ながら、また言った。


 「40まで生きるって言っただろーが!おかしくねぇ?30前って。」


 「おかあ…さん?」


 お義母さんの見てる方を見るが…何もない。


 「どうしたの…お義母さん。」


 お義母さんは、しゃべり続ける。


 「見てみろ!やってやったぜ。」


 これは、旦那を呼ばなくちゃと、廊下へ顔をだし「ちょっと、お義母さんが、早く来て。」


 旦那たちが、急いでやって来た。


 お義母さんは、拳を握り力強く振って「やってやった、保育園も小中高学校の行事もクラブチームも部活も役員もやったし、公式試合も練習試合も合宿もぜーんぶ、出て見てやった。どーよ!」


 「かぁちゃん。」旦那が、普段呼ばない呼び方で言った。


 「マジおそ。迎えに来るのが。もう、結構な…ばばぁになっちゃったじゃん。」


 旦那が、静かに涙を流した。


 「やりきったぜ!」また、強く拳を握った。


 旦那が、なにか呟いた。


 「我が生涯に一片の悔い無し。」と、お義母さんが拳を突き上げ叫んで、そのまま後ろに倒れた。


 「かぁちゃん!」旦那が呼んだ。


 くるっとこっちを見て、ニヤリと笑い「父ちゃんが、迎えに来た。じゃぁな。」と、言った。


 そのまま目を閉じた。


 そのままお義母さんは、逝ってしまった。


 


 散骨の時、旦那が言った。


 「かぁちゃんが、言ってたんだ。」


 「なにを?」


 「辛いから、一緒に死んでくれって俺に言ったんだって、そしたら俺が

…。」

 

 風が、強く吹いた。


 「俺は生きる、だから育てろって…。」


 「3才の時に?」


 旦那は 、頷き「お前を30までどうにか生かせることが出来たら、、父ちゃんが迎えに来たときに、言ってやるって。」


 「うん。」


 「やってやったぜって…。」


 お義母さん…すごく言ってた。


 「本当は、後悔ばかりだったとしても、死ぬ間際に父ちゃんに言ってやるって 。」


 それであの言葉。


 「人生でなく生涯ってね…最後、間違ってるじゃんって、言いたいよね。」


 ちょっと、旦那が笑った。


 「母上、最後結婚した頃に戻ってた…たぶん。」


 空を見上げながら、「よかったね、迎えに来てくれて。」と、旦那が呟いた。














 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

お義母さんの最後 @hujiko86

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る