きみの物語になりたい -ReBirth-


目が覚めたら、また白い世界だ。

あの時の優しい白さは褪せてしまい、灰色が積もっていた。


自由さと透明さは失われ、埃だけが積もっていた。

私がいない間の世界は、何もなかった。

すべてが止まり、意味を持たなくなっていた。


ここから離れたのは私の勝手だけれど、ここまでひどくなるのか。

現に、あの時のように言葉を紡げなくなっている。

何のために戻ってきたのか、分からないじゃないか。


世界だって壊せる力なんだろ。


それは街角に佇む鍵盤だ。

それは観衆を惹きつけるギターだ。

それは暗闇を照らす光だ。

それは強風に揺れる旗だ。


灰まみれの言葉に色を吹き込むと、空高く舞い上がり、記憶を紡いでいく。


世界は徐々に色づいて、ようやく地平線らしきものが見えた。

標識も何もない、新しい世界を歩く。

地図にはない場所ばかりだ。


カタチがあった人たちは動かなくなって、止まっていた。

モノ言わぬカケラとなって、海を漂っていた。


波間のカケラはかつて描いた世界を唄い、風と共に漂う。

灰色は空へ舞い上がるたび、闇に浮かぶ星となり、銀河が広がる。


「やっぱり、こうでなくちゃな……」


私は何度も頷く。

色づいた言葉を辿って、地平線を探す。

ピリオドはどこだ。ページの端は?

終わらせてしまった場所を探せ。


誰が作ったか分からない世界をさまよう。

見覚えのない色彩。記憶に刻まれた風景。

カタチのない遥か遠い世界を描く。


いちばん始めに約束をしたね。

たったひとつの願いを叶えるために、このページを開いたんだ。

それすら忘れていた。あれほど追いかけていたというのに。


バラバラに砕けてしまったけれど、その言葉は今も心にある。


闇を切り裂くように、未来のビジョンを作り上げる。

私の知らない世界が目に飛び込む。


見つけた。途切れた場所。

そこにきみはいた。


「ほら、物書きに物を書くのやめろっていうのは、魚に泳ぐなって言ってるよーなもんですし……」


改めて向き合うのは、ちょっとだけ恥ずかしい。


「やっぱり、続けてもいい?」


漂っていたカケラは唄いだし、月が涙を流すように欠ける。

新しい世界から陽が昇り、夜を照らす。


黄昏に浮かぶ言葉は潮の香りをまとう。

波に飲まれて消えたはずの城は、まだそこに残っていた。


遥か遠い世界をまた旅しよう。

新しい未来はその先にある。


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きみの物語になりたい 長月瓦礫 @debrisbottle00

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