きみの物語になりたい
長月瓦礫
きみの物語になりたい -THE WORLDS-
波に消えていく砂の城は、幼い頃に見た夢と似ている。
歳を重ねていくうちに、カタチを失っていく。
心のどこかでは、城が完成したあの瞬間を追いかけているというのに。
それは、遠い昔に描いた絵によく似ている。
画用紙の自由さと透明さは、目の前にある色鉛筆で世界を描くときの、あの楽しさを彷彿とさせる。
そしてまた、気がつけば白い世界に放り込まれた。ああ、何もない世界だ。
ただ、その色は優しく私を受け入れてくれた。
言葉を紡げば、色がついた。理由なんてどうでもよかった。
楽しければそれでよかった。それでよかったんだ。
やがて、カタチを持った人たちが自由に動き回る。
勝手に喋り出して止まらない。筋書きを作ってもそれを軽々と超えていく。
色をつけ足すたびに、世界が広がっていく。
「お前らいい加減にしろ!」
そんなこと言っても聞きやしない。それでも楽しかった。
それが思い出になって、本になっていく。
そんな日がずっと続けばいいと思った。
いずれ、この世界から離れなければならないのは分かっていたから。
時が経つにつれ、世界は色褪せる。
言葉が続かないから、世界も広がらない。
物言わない灰色の埃だけがこの世界に降り続ける。
ページの先は暗闇が広がっている。
私はひとりぼっちになった。
黒色ですべてが塗り潰されたんだ。
死んだのは誰だ。殺したのは誰だ。
忘れ去られたとしても、ずっと見ていたかったのに。
紡ぐ言葉を彩る世界を見ていたかった。
鮮やかだった世界が色褪せていく。
どうか、隣りにいたことを忘れないで。
ここに戻って来ないのは分かってる。
あの頃のような鮮やかな色はもう出ない。
どこかで諦めを感じている自分もいる。
こんな終わりがあっていいものか。
この世界がバッドエンドでもいい。
物語が途切れるたまま終わるより、ずっといいでしょう?
この世界を守らないといけない。
いつでも戻れるように、色をつけ足していく。
この星すら壊す力にだってなれることを忘れないように。
始まりはたった一つの願いだった。
それを叶えるために、このページを開いたんだ。
いつかまた戻って来られるように、ずっと守っているから。
このお話が完成するのはいつか分からないけど、待っているから。
どんな結果になったとしても、この世界はあなたのものだから。
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